研究課題/領域番号 |
23360076
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
澤江 義則 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10284530)
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研究分担者 |
中嶋 和弘 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70315109)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | トライボロジー / 細胞・組織 / 関節軟骨 / 潤滑 / 移植・再生医療 / 摩擦 / メカノトランスダクション |
研究概要 |
牛の軟骨組織から酵素消化法により単離した初代軟骨細胞を,アガロースゲルに播種し生体組織モデルとした.この生体組織モデルの表面に対し摺動負荷を加えながら培養し,培養軟骨細胞による細胞外基質産生と組織構造形成,さらに力学的機能の発現について実験的に検証した. 本年度の培養実験では,培養後の生体組織モデル内に含まれるコラーゲン線維量およびグリコサミノグリカン量を比色定量法により評価し,培養軟骨細胞による細胞外基質産生に対する摺動負荷の影響を定量的に議論するとともに,レオメータにより得られる粘弾性特性との相関を確認した.その結果,初期押し込み深さ0.2 mm,ストローク1.6 mmの純転がり往復摺動を1 Hzにて1日12時間くわえた2週間および3週間の培養実験において,摺動負荷培養群のコラーゲン線維量およびグリコサミノグリカン量が,摺動負荷を加えなかった対照群と比較し増加する傾向が認められた.このことより,摺動負荷により組織モデル内に生じる力学場により,軟骨細胞の細胞外基質産生が促進されることが定量的に示された.また生体組織モデル内のコラーゲン線維量とレオメータにより測定された貯蔵弾性率の間に強い相関があることを確認した.このことにより,摺動負荷による細胞外基質産生の促進が,培養組織の機械特性の向上に結びついていることが確認された. 次に摺動負荷時の滑り率を0から0.5に増加させ,3週間の培養実験を行った.しかし,摺動負荷群ではローラの相対滑りによりモデル表面が大きく摩耗し,摺動部では生細胞および細胞外基質の欠落が認められた.これは,生体組織モデル表面の初期せん断強さが非常に低く,滑りにより表面に生じる接線力に耐えられなかったと考えられる.そこで,まず純転がり摺動下の培養により組織モデル表面でのコラーゲン線維網の発達を促し,その後に滑り率等を変化させることとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り,摺動負荷培養実験後の生体組織モデル内に含まれるコラーゲン線維量およびプロテオグリカン量の定量評価を進め,摺動負荷が培養軟骨細胞による細胞外基質の産生を促進することを定量的に示すことができた.また培養組織モデル内のコラーゲン線維量と組織モデルの貯蔵弾性率の間に強い相関があることも確認できた.これにより,摺動負荷によるコラーゲン線維産生の促進が組織の機械的特性の向上に貢献していることを定量的データで示すことに成功した.さらに,摺動負荷時の過酷度パラメータである初期押し込み深さと滑り率を変化させ,その組織形成への影響を評価する実験に着手することができた.しかし,滑り率の上昇によるモデル表面の摩耗が著しく,実験手法の再検討が必要となった.これについては,まず過酷度の最も低い純転がり摺動負荷下においてモデル表面の強度を上昇させ,その後滑り率等を上昇させることで摩耗の問題を軽減できることを確認した.このような培養実験の手法の見直し等を行ったことから,モデル表面の摩擦特性評価について計画の遅れが生じている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って,摺動負荷により組織モデル内に生じる応力とひずみ等の力学的状態を規定する,「接触圧力」,「転がり速度」,「滑り率」の3つの力学パラメータを変化させた摺動負荷実験を行う.また固液二相理論を用いた数値解析により,摺動負荷下の組織モデル内の応力・ひずみ分布および内部流体の流動状態を明らかにし,培養軟骨細胞の代謝とそれによる組織形成に対する各パラメータの影響を評価する.また,これまで行ってきたCLSM観察による定性的な組織構造の評価に加え,画像処理技術を応用し組織構造の特徴量を抽出し,異方性等の定量評価を行う.また,計画に遅れの生じている培養組織表面の摩擦特性評価については,装置改造等を優先して進め,最終的に信頼性の高い摩耗特性評価結果を得ることを目指す. これとは別に単純圧縮負荷培養試験を行い,培養中に細胞に加わる圧縮ひずみの大きさと細胞の生存率および代謝との関係を整理する.この知見を生かし,摺動により組織内に生じる複雑なひずみ場の影響を理解する一助とする.
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