研究概要 |
本研究は,軽度な「系の微小化」あるいは「気体の希薄化」効果を取り入れた流体力学的枠組みである一般すべり流理論の整備と,その非定常系への新展開を試みるものである. 初年度は,まず,非定常系における対称性理論を検証する数値解析を行い,その妥当性をあらためて確認した(Takata & Oishi, Phys. Fluids 24,12003).この理論は,研究計画全般においてひとつの要となるものであり,この検証は,クヌッセン数展開の2次までに現れる種々のすべり係数を,精密解法が確立していない直接計算ではなく,簡易な間接計算によって導く新しい方法論に確証を与えるものである.また,一般理論の構築に先だって,非定常系に特有のすべり現象が現れる具体例の存在を,漸近解析,数値解析の両面から調べて実証した(Takata, Aoki, Hatori & Hadjiconstantinou, Phys. Fluids 24,32002).これは,本課題研究を立案した際の予測が正しく,非定常系に特有のすべりがクヌッセン数展開の2次で現れることを示す最初の事例報告である.この報告では,新しいすべり現象に対応するすべり係数が,直接計算を回避して上記の対称性理論を用いて間接的に容易に求められることも実証している.また,非定常系に特有の新しい輸送係数もこの事例によって定量的なレベルで同定した.一般論の枠組みについての予備考察によれば,非定常系に新しく現れる輸送係数は今回同定されたものに限られることがわかっており,次年度以降は,すべり条件と境界層の構造を同定することに集中できることになる. 以上のように,初年度において,次年度以降に一般理論を構築し,それを(境界層の内部構造の詳細を除いて)定量的に完結する為の土台が整えられた.
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今後の研究の推進方策 |
非定常系における理論体系の構築は順調に進んでおり,計画内容を変更する必要はない.ただ,数値計算では,分子間力模型や境界条件の一般化の方向ではなく,むしろBGK方程式と剛体球分子ボルツマン方程式の両者に対する数値計算を展開することに集中する.とくに高精度の数値解析が可能なBGK方程式では,境界の形状に関わる境界層の微妙な解析を田口とともに進める.また,2次すべりの境界層の詳細な構造を解明するための新しい数値解析法の開発を初鳥とともに進める予定である.小菅はこれらの解析を全般的に支援する.
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