研究課題/領域番号 |
23360094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白樫 了 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (80292754)
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キーワード | 誘電分光 / 結合水 / 常温乾燥 / 保護物質 |
研究概要 |
当該年度に対応する本研究の目的は,種々の含水率の生体保護物質について,誘電分光測定と緩和時間分布解析,高濃度領域における保護物質の相変化測定,水分活性測定等の測定方法の確立にある. 本年度は,常温乾燥でトレハロースの結晶化を阻害し,低含水率でガラス転移すると期待される分子(以下,添加分子)として,比較的低分子量でガラス転移点が常温よりかなり高いデキストランを選択し,種々の質量混合比でガラス転移点の測定と誘電分光を行った.その結果,トレハロースにデキストランを添加することで,ガラス転移点が著しく上昇する一方で,緩和時間が短くなること,相当量のデキストランを添加しても乾燥により結晶化に由来すると思われるクラックの発生がすることが確認できた. モデルタンパク質としてゼラチンを選び,種々の含水率のゼラチンゲルの誘電分光を10kHz~6GHzの広帯域で行うと共に,水分活性や凍結水率の測定をおこなった.誘電スペクトルから緩和時間分布を,分布モデルを用いることなく解析するプログラムを作成し,ゼラチンゲルの緩和時間分布を計算し,結合水と思われる2つの特徴的な緩和時間が存在すること,緩和時間がブロードに分布していることが確認できた.また,誘電分光より算出される自由水率は,比較的高い含水率では,示差走査熱量測定より計測された凍結水量とほぼ等しい値がえられた.これらの測定では,新たに数10μL程度の微量試料で分光が行えるプローブを開発・作製して用いた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該年度は,示差走査熱量計の故障があった為,計画の進捗が若干遅れ気味となった.具体的には,保護物質の選定では最も基礎的なデータとなる熱量計による相図の作成を優先したことで,誘電分光測定の解析手法の開発がやや不十分のままとなった.また,誘電分光を行うフィクスチャーの形態や計測器の精度が,結合水を精度よく解析するには不十分であることも判明したので,次年度(H24年度)になった後も,相図の測定と誘電分光の測定・解析手法の開発を行った.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,本研究で最も重要な開発課題である結合水の解析技術の構築に不可欠な,広帯域の誘電スペクトルの取得と,デキストラン以外にも希少な保護物質やタンパク質が測定対象になるため,そのため,計測器の更新を行い,フィクスチャー(プローブ)の作製・評価を行う.さらに極微量・薄膜サンプルが測定できる微小プローブの作製を中心におこなう.また,リポソームを用いたトレハロースやLEAペプチドによる脂質保護効果について測定する.この分光の測定・解析技術が確立した後,タンパク質の保護効果や保護物質の結合水の測定を行う.
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