研究課題
当該年度に対応する本研究の目的は,1)測定試料の量を大幅に減らす誘電分光用のセンサーの開発,2)昨年度に顕在化した問題である,100kHz-100MHz帯の誘電分光測定における系統誤差・偏差を測定装置とセンサーの改良により解決すること,を中心におこなった.また,3)乾燥保護物質であるLEAペプチドやトレハロースのリン脂質膜の乾燥保護効果を,巨大リポソームを用いて測定した.1)については,昨年度までの研究で,反射測定により誘電分光を行う100MHz以上の高周波数帯については,端部開放の同軸型プローブの直径を小さくすることで測定深度を浅くできることがわかったので,市販されている最も細いリジッドケーブルである330μmのセンサを作製した.製作にあたって,同センサーにより,低周波数から40GHz以上の広帯域誘電分光測定ができるようにアセンブリを設計し,少なくとも100kHz-6GHzの範囲において測定できることが分かったが,ホルダーに細心の注意を施す必要があることが判明した.また,コプレーナー導波路を用いた薄膜試料の測定プローブについてもTDR測定による測定深度の確認をおこなった.2)については,新たに高精度のインピーダンスメータと同軸型のプローブが接続できるフィクスチャーを使用し,適切な較正液を使用してデータを補正したところ,100kHz-100MHzの系統誤差・偏差がなくなり,100MHz以上のスペクトルと滑らかに結合できるようになった.また,同軸型プローブの使用も可能になったことで,低周波においても極微量の試料の誘電分光測定が可能になった.3)については,トレハロースまたはLEAペプチドを微量含有した水溶液中の巨大リポソームを真空乾燥させて約4日程度保存した試料は,復水した後もリポソームの直径分布や数が乾燥前に比べても殆ど変化がないことが判明した.
4: 遅れている
当該年度に至って,ようやく微量試料を用いた広帯域誘電分光ができる測定系が整った.緩和時間分布や結合水量の解析手法についても,ほぼ確立したものの,実際の保護物質の物性測定やタンパク質を用いた劣化速度の測定は,未だ本格的に行っていない状況にある.申請では,これらの測定は当該年度で始めている計画であったが,主として,保有していた示差走査熱量計の故障とその後の修理に時間がかかったこと,低周波数帯における誘電分光計測が,機器とフィクスチャーの不備により思うように精度がなく,極微量試料の測定法の開発にも時間がかかったこと,の2点により測定系の構築に予定以上の時間を要したことが原因と判断している.
次年度は,幾つかの保護物質を対象として,種々の含水率で誘電分光測定を行うと共に,初年度に使用したリゾチームを対象として,種々の保護物質濃度に対する高次構造の劣化速度を測定することを試みる.さらに,これらの基礎データをもとにして,緩和強度と緩和時間と劣化の関連を説明しうる分子緩和モデルの構築を試みる.
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Measurement Science and Technology
巻: Vol.24 No.2 ページ: 025501+10
doi:10.1088/0957-0233/24/2/025501
第33回熱物性シンポジウム講演論文集
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