研究概要 |
当初計画では当該年度において,1)幾つかの保護物質を対象として,種々の含水率で誘電分光測定を行う,2)初年度に使用したリゾチームを対象として,種々の保護物質濃度に対する高次構造の劣化速度を測定することを試みる.3)緩和強度と緩和時間と劣化の関連を説明しうる分子緩和モデルの構築を試みる,ことを目的とした. 1)については,初年度で用いた,トレハロースとデキストランの混合保護物質について,種々の温度と濃度で誘電分光を行い,緩和時間の温度,濃度依存性を測定し,活性化エネルギーを算出した.その結果,デキストランは,高濃度において,二つの緩和モードが存在することがわかった.さらに,細胞の凍結保護物質として有望な,ポリリジンの残基を一部改変して両極性をもった高分子の合成をおこなった. 2)では,リゾチームのかわりにADH(Alcohol DeHydrogenase:アルコール脱水素酵素)をもちいて,上記の保護物質を添加して一定温度で保存し,活性の変化の測定の予備実験をおこなった.失活速度が一週間程度と遅いため測定に時間を要したことや,測定系(容器,ADH濃度等)の確定に手間取ったため,現段階では議論できるほどの結果が得られていない. 最後の3)については,劣化速度の特性時間のデータが得られていないことから,分子緩和モデルの構築には至っていない.但し,結合水の結合エネルギーと緩和時間を関連づける議論の基礎となるデータとして,含水率が既知のゼラチンゲルについて水分子の水素結合の数(S0,S1,S2)を反映している赤外スペクトルのピークの測定をおこない,含水率と水素結合数のピーク面積の比の関係を測定した.初年度に測定したゼラチンゲル内の結合水の緩和モードと水素結合数を比較することで,結合状態と結合水の分子運動の緩和の関係を考察できる.
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