研究概要 |
脳・身体・環境の動的相互作用から生成される歩行の高度踏破性及び頑健性を実現するための筋骨格・神経機構の解明を目指し,ヒト・サル・ラットを対象に運動計測データに基づいて運動機能を明らかにする解析的研究と,神経筋骨格モデルに基づくシミュレーションを通して機能的役割を明らかにする構成論的研究を行った. ヒトの運動解析では,振動台とトレッドミルを用いて外乱を加えた歩行の運動計測を行った.その結果,外乱前後の運動に位相差が存在し,等位相面を用いて外乱後の復帰過程を記述することで,接地・離地時の位相調整機構を明らかにした. サルの運動解析では,トレッドミル上で四足・二足歩行遂行時の大脳皮質・一次運動野の単一神経細胞活動と体幹・四肢の筋活動を記録した.その結果,一次運動野は運動により生じる律動的な体性感覚を受け取りつつ,皮質下の神経機構で生成される定常的な律動的活動をより高次レベルで環境適応的にオンラインで修飾することが示唆された. ラットの運動解析では,障害物跨ぎ越し歩行での小脳皮質の関与を調べるため,中間部・外側半球部,そしてプルキンエ細胞の活動とその可塑性に寄与する下オリーブ核を破壊した.その結果,中間部では破壊側に跨ぎ越す前・後肢の膝・足関節に過屈曲が見られ,外側半球部では破壊側前肢の爪先軌道が障害された.下オリーブ核では爪先軌道に複数の変曲点が生じ,軌道が著しく障害されることが判明した. シミュレーションでは,既に開発していたラットの後肢筋骨格モデルに,筋活動の協調構造を示す筋シナジーや感覚情報による運動指令の調整を示す位相リセットや肢間協調制御など生理学的知見に基づく神経制御モデルを導入し,障害物跨ぎ越し歩行を行った.その結果,肢間協調制御がより高い障害物の回避,位相リセットが跨ぎ越し後の安定化に寄与することを明らかにした.更に前肢の解剖計測も開始し,全身筋骨格モデルもほぼ完成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
振動台とトレッドミルを用いたヒトの外乱負荷時の歩行の運動解析や,サル2足歩行時の大脳皮質運動領野からの神経細胞活動の記録や体幹・四肢の筋活動の記録,小脳皮質を一部破壊したラットの障害物跨ぎ越し歩行の運動解析,解剖学データ・神経生理学的知見に基づく神経筋骨格モデルの構築と歩行シミュレーションによる機能的役割の検証など,当初予定していた研究計画が予定通り遂行されており,研究代表者と研究分担者の間で頻繁にミーティングを行い生工連携研究が着実に進められているため.
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今後の研究の推進方策 |
本年度と同様に,ヒト・サル・ラットの歩行の運動計測と解析,神経筋骨格モデルに基づく動力学シミュレーションを行い,これまで通り頻繁に研究ミーティングを実施して,生工連携による研究を推進していく.ただし,ヒトの運動計測と解析に関する研究を進めていく上で,統計的解析手法の向上と筋電の計測・解析手法の向上が必要になった.そこでH24年度からは,それぞれ専門的な技術を有する研究分担者を追加する予定である(2人).
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