研究課題
本研究では風力発電施設への落雷をその数秒前に予測することによって、風車本体と変圧施設やその先の電力系統とを完全に切り離すというこれまで行われてきた耐雷対策とは異なる新たな耐雷対策を確立することを目的としている。風力発電設備への落雷を予知するためには風力発電設備周辺の地上電界と雷雲下の空間電荷分布が分かれば可能となる。雷雲下の空間電荷分布をリアルタイムに測定する方法は開発されておらず、その技術開発を行うと共に、その結果から導かれる予知の妥当性を観測で確かめる。次の特徴の異なる次の4つの空間電荷分布測定法A.ファラデーケージ法、B.静電界遮蔽法、C.音波法、D.ドップラー・ライダー法を開発する。本年度はA.ファラデーケージ法、B.静電界遮蔽法による冬季雷観測を平成24年10月中旬から平成25年1月末までの約3ヶ月間石川県内灘町の風力発電設備周辺において実施した。ファラデーケージ法は4カ所で静電界遮蔽法は1カ所で行った。C.音波法は室内実験において音波の周波数を下げることにより昨年度より高感度で電荷密度を精度良く検出することに成功した。また、新たな空間電荷測定法として電位測定法の開発を行った。落雷予知において妨げとなる空間電荷による地上電界の緩和効果を取り除く試みを行った。4カ所のファラデーケージによって観測された地上の空間電荷分布と1カ所に設置された高さ4mのファラデーケージによって空間電荷の高度分布より観測領域内の全電荷量を予測して雷雲電荷だけの地上電界分布を求めた。風力発電設備に落雷時に地上電界はそれほど高くなくても、雷雲電荷による電界は地上電界の5倍ほど高くなっていることを確認した。新たに開発した電位測定法は直径30cm程度のファラデーケージで構成されており、室内実験においてその動作を確認した。小型であるため高い高度での測定が容易となった。
2: おおむね順調に進展している
雷雲下の空間電荷をファラデーケージを用いて多地点で計測することに成功し、当初の予測通りの結果も得られている。この結果により落雷の予知が可能となる。従って、ファラデーケージ法については計画以上に進んでいる。静電界遮蔽法は空間電荷の測定に成功し、空間電荷の推定に新たに購入した電場計算ソフトにより推定精度の向上に寄与している。音波法は音波の周波数を下げることにより精度が向上しおおむね順調に進展している。ドップラー・ライダー法は装置の設計までは可能であることが確かめられたが共用のレーザーの借りだし期間が短く実測できていない。雷雲下の空間電荷密度分布を知るには高度方向も重要なファクターであるが、新たに開発した小型の空間電荷測定装置が今後は威力を発揮できると期待できる。
統計上意味のある数量のデータを獲得するため、数年間の観測は欠かせない。そのため、平成23年度および平成24年度の観測結果を踏まえた観測を平成25年度以降にも同様に実施する。これと並行して平成23、24年度の観測データの詳細な解析を行い、冬季上向き雷を予知するための雷雲内電荷と雷雲下の空間電荷を各風車落雷毎に求め、落雷発生の共通因子を洗い出す。ファラデーケージ法では、新規開発の電位法型空間電荷測定装置の精度を確認できれば高所での測定カ所を増やし空間電荷密度の高度減衰の違いを調べる。音波法では受信感度を上げるためにアンテナ面積を広げ測定感度の上昇を目指すと共にノイズ成分の低減を行う。また、落雷時の空間電荷量を放電進展モデルより逆算する手法を新たに開発したので、詳細な実測値と比較検討する。
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