研究概要 |
反応性スパッタリング法ならびに自然酸化法によるスピネル(MgAl2O4)薄膜の作製条件の検討と、同薄膜をバリア層としたFe4N/スピネル/CoFeB構造のMTJの作製を行いその伝導特性評価を行った。その結果、MgOをバリア層とした場合と同様にインバースTMR効果が観測され、Fe4Nの伝導電子の負のスピン分極が反映された伝導特性が得られた。 Fe4N類型材料としてFe4Nよりも大きなスピン分極を有すると期待される(Fe,Co)4Nならびに(Fe,Ni)4N薄膜の合成ならびに磁気伝導特性の評価を行った。CoならびにNi添加量30at%までの範囲で、Fe4Nと同構造(逆ペロブスカイト型構造)の固溶体薄膜の単相合成に成功した一方で、添加量の増加に伴って同構造の熱安定性が劣化することを見出した。(Fe,Co)4N薄膜の異方性磁気抵抗(AMR)効果は負であり、Fe4Nと同様に少数スピン電子が伝導を担うことが明らかとなった。(Fe,Co)4Nを用いたMTJを作製し伝導特性評価を行ったが、同薄膜の低耐熱性によりFe4Nを用いたMTJを超える特性は得られなかった。 結晶場効果を取り入れたAMR効果の理論模型構築を行い、AMR比の定式化を行った。その結果、Fe4Nで特徴的に見られた低温でのAMR比の増大ならびにcos4θ成分の出現は、それぞれ、dε, dγ軌道の分裂ならびに正方晶歪みに起因することが明らかとなった。 Fe4Nに特徴的な負のスピン分極電子による伝導が、スピンダイナミクスに及ぼす効果を調べる目的で、Fe4N/Pt積層膜の逆スピンホール効果を調べた。その結果、同積層膜のミキシングコンダクタンスが通常の強磁性金属を用いたものよりも大きく、Fe4Nがスピン流応用デバイスに有望であることを見出した。
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