研究課題/領域番号 |
23360132
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小川 智之 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50372305)
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研究分担者 |
佐藤 徹哉 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (20162448)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 純鉄 / スピンナノクラスター / 自己組織化 / 軟磁気特性 |
研究概要 |
高飽和磁化を有する純鉄スピンナノクラスター(Feナノ粒子)の集合体では優れた軟磁気特性の発現が期待されている。化学的手法により作製したFeナノ粒子は鉄重量当たりでは高い飽和磁化を有しているものの、粒子表面に吸着した界面活性剤が高透磁率化(低保磁力化)ならびに高飽和磁化化を阻害している。本研究では、Fe表面に対する界面活性剤の物理的・化学的吸着力に着目し、これまで用いてきたオレイルアミンより弱い吸着力を有する界面活性剤を用いることで、ナノ粒子表面を覆う界面活性剤量の低減を試みた。界面活性剤の吸着力は主にその極性の大きさに依存しており、極性は親水親油バランス(HLB値)できまる。これまで用いてきたオレイルアミン(OlAm)等ではHLB値8~10程度であるのに対し、本研究では、吸着力の弱い界面活性剤として、HLB値が1~2程度と小さいトリオクチルアミン(TOcAm)、トリベンジルアミン(TBeAm)を選定し、Feナノ粒子の合成に用いた。X線回折および電子線回折の結果から、OlAmを用いたFeナノ粒子は、格子定数がα-Feよりも4%程度大きく、極微細な結晶子から構成された歪んだα相を有していることがわかった。一方、TOcAm-Feナノ粒子は歪んだα相とα-Fe相が混在しており、TBeAm-Feナノ粒子では歪んだα相は確認できず、α-Fe相のみが観測された。飽和磁化は、α-Fe相の割合が増加するほど大きくなり、TBeAm-Feナノ粒子では、208 emu/gとなることが分かった。以上の結果から、Feナノ粒子の高飽和磁化化には歪んだα相の生成を抑制し、α-Fe相の生成を促進することが重要となることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で得られたFeナノ粒子の飽和磁化は200emu/gであることが分かった。これは、吸着力の弱い界面活性剤を適用することで、純鉄ナノ粒子合成直後の界面活性剤量が低減するばかりでなく、純鉄の結晶構造が改善されたことに起因するものと考えられる。Feナノ粒子を用いた超軟磁気特性の発現には、Feナノ粒子の高飽和磁化化の指導原理解明と合成プロセスの構築が必須となっていたが、今年度までにその一端を明らかにするまでに至った。本成果は、最終目標達成のためのひとつのブレークスルーと位置付けることができ、本研究が順調に進展していることを意味している。また、界面活性剤比率を制御することで粒径を10nm以下に低減することも可能となっている。以上の結果を踏まえ、次年度以降、Feナノ粒子の大量合成が可能となり、バルク試料の形成が可能となれば、高飽和磁化、高透磁率かつ低保磁力を有する磁性ナノ粒子を活用した新規な軟磁性材料の具現化が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、Feナノ粒子の200emu/gの高飽和磁化化、10nm以下の粒径制御の合成プロセス構築、を成果の柱としてこれまで順調に進展している。次年度以降、当初計画の通り、バルク化技術の構築、ならびに、その磁気特性発現メカニズムの解明を通して、超軟磁気特性を示すこれまでにないFeナノ粒子自己組織化集合体バルクの実現を目指す。
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