研究の最終年度である今年度は、研究の主眼である純化学的手法による各種蛍光体の作製と特性評価に傾注した。これら蛍光体の母体結晶として、(1) I2-IV-F6、(2) II-IV-F6、(3) アルカリハライド結晶、(4) CaCO3、(5)SnO2結晶が上げられる。母体結晶に対する賦活イオンとして、Mn2+、Mn4+、Ce3+、Tb3+、Eu3+、Cr3+を検討した。(1)の I2-IV-F6蛍光体では、Mn2+イオン賦活黄色蛍光体でのユニークな光照射劣化現象を観測した。そして、その原因として、光イオン化現象(Mn2+→Mn3+)を提案した。(2)のII-IV-F6蛍光体として、BaSiF6:Mn4+やBaTiF6:Mn4+、ZnSiF6・6H2O:Mn4+の赤色蛍光体の合成に成功し、諸特性を調べた。そして、前者の二つについては、我々が以前に開発した高性能K2SiF6:Mn4+赤色蛍光体と同等に近い特性を示すことが分かった。(3)では、NaClやKClを母体結晶としたCe3+賦活青色蛍光体やCe3+をドナーイオンとし、Tb3+をアクセプタイオンとする共賦活エネルギー輸送蛍光体を開発した。(4)のCaCO3ではCe3+とTb3+の共賦活緑色蛍光体を作製した。(5)のSnO2蛍光体では、Mnイオンを賦活させることにより、近赤外にピークを有するユニークな発光を観測した。3価のMnイオンによるものと考えている。以上を総合すると、Mnイオンは2価から7価までの価数を取ることが可能であり、適切な母体材料を選ぶことで、青色から近赤外までの広い波長域をカバーできる魅力的な賦活イオンと結論される。
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