研究課題
H23年度は炭化タングステン(WC)の電極特性を評価することを主眼に置き、ダイヤモンドの結晶欠陥が電気的特性に影響を及ぼしにくい横型構造の素子で評価を進めてきた。その結果、カーバイド金属に特徴的な漏れ電流機構や熱的耐性が明らかになった。H24年度は、これらの注意点に配慮しつつ、実用的な縦型素子構造でダイヤモンドショットキーダイオード(SBD)特製を調べた。(1)「縦型ダイヤモンドSBDの耐圧特性」縦型WCダイヤモンドSBDを作製し、電流-電圧測定したところ、横型構造で観測された順方向特性の肩は現れず、シリーズ抵抗成分は約2桁特性向上した。逆方向特性については、横型素子の絶縁破壊電圧が500V以上であったのに対して、縦型素子では50V~150Vと低く、広い電圧範囲に渡った。特性のばらつきは、ダイヤモンド結晶内での欠陥分布の不均一性を反映している。一旦、絶縁破壊を生じると、逆方向特性は変性した。この変性により順方向特性においては、新たに再結合電流が観測されるようになり、H23年度に実施したギャップ間準位の発生が、絶縁破壊でも生じえることが明らかになった。(2)「ダイヤモンド厚膜結晶成長」上記の縦型SBD作製に伴い、H23年度に続いてダイヤモンド結晶の厚膜合成条件最適化を行った。H24年度は、膜厚が20μmのノンドープダイヤモンドを導電性ダイヤモンド単結晶の上に合成し、耐圧特性を調べた。その結果、絶縁破壊電圧は約2kVと高い耐圧特性を得た。一方で、導電性結晶基板上への合成においては、絶縁性結晶基板に比べてプラズマが結晶をエッチングしやすい事が明らかになった。今後は、導電性結晶基板上への合成を行う際に、まずエッチングを起こしにくい低密度プラズマを用いて基板表面にダイヤモンド極薄膜をパッシベーション膜として合成し、その後に高成長速度合成に切り替える必要があることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
実用化に不可欠な高品質・厚膜ダイヤモンド合成に目途がついたこと、またこの結晶を用いて優れた特性のダイヤモンドショットキーダイオード特性が得られたことが主な理由である。絶縁破壊電界は最高で3MV/cmと過去報告された最高値と同程度であった。縦型素子構造では電圧印加領域が薄膜の厚みで制限されるため、比較的低い電圧でも高い絶縁破壊電界の評価が可能となった。高い絶縁破壊電界の達成は、H23年度に実施したダイヤモンド結晶性の向上によるものと考えている。次年度は、この素子構造で、電極ガードリングを作りこむこと、また高品質結晶にドーピングを行うことで、より高性能かつシンプルな結果が得られるものと期待している。
炭化タングステンを電極としたp型ショットキーダイオードで、高い絶縁破壊電界(3MV/cm)が再現性良く得られた。またダイヤモンド結晶膜厚を20μmとすることで約2kVという高い絶縁破壊電圧を得られた。これは、ダイヤモンドが高耐圧素子として優れたポテンシャルを秘めていることを意味している。一方で縦型素子構造での評価では、ダイヤモンド結晶性と逆方向特性に相関がみられ、ダイヤモンド結晶性の向上が不可欠となっている。また低ドープ濃度(ノンドープ)ダイヤモンド結晶が評価の中心となっているが、ボロンドープ濃度がダイオード特性に及ぼす影響についても評価が必要である。また、電極ガードリング作製といった耐圧構造の作製も併せて実施する必要がある。
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