研究課題/領域番号 |
23360160
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
能崎 幸雄 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (30304760)
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研究分担者 |
松山 公秀 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (80165919)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 強磁性共鳴 / 磁気記録 / マイクロ波 / 垂直磁化膜 |
研究概要 |
本年度は、垂直磁気記録媒体として利用されているグラニュラー構造媒体(直径数ナノメートルの単磁区磁気微粒子が非磁性誘電体中に分散した媒体)について、マイクロ波アシスト磁化反転実験を行い、高強度マイクロ波により強励起される強磁性共鳴が磁化反転にどのように影響するかを詳しく調べた。また、三次元磁気記録を目指し、磁気特性(飽和磁化および異方性磁場)の異なる3種類の媒体を積層した複合構造膜における選択的マイクロ波アシスト記録のマイクロマグネティクスシミュレーション計算を行った。主な研究成果は以下の通りである。 (1)CoCrPtグラニュラー媒体上にコプレーナ線路を微細加工法を用いて作製し、その強磁性共鳴スペクトルの測定を行った。その結果、強磁性共鳴周波数と媒体の磁化が比例関係にあることを発見した。この性質を用いることにより、マイクロ波インパルス印加後の媒体の磁化を共鳴周波数から測定できることが分かった。さらに、マイクロ波インパルスの周波数やパルス幅に対する磁化反転量の変化を詳しく調べた結果、強度25 dBm、周波数15 GHz、パルス幅50ナノ秒のマイクロ波インパルスにより媒体の磁化反転磁場を約30 %低下させることに成功した。本成果は、グラニュラー媒体のマイクロ波アシスト磁化反転を初めて実験的に検証したものであり、マイクロ波アシスト記録方式ハードディスクの実用化に向けて極めて大きな一歩といえる。 (2)マイクロマグネティクスの手法を用いた数値計算により、3層構造媒体の3次元マイクロ波アシスト磁気記録シミュレーションを行った。3次元マイクロ波アシスト磁気記録では、各層の記録周波数を差別化することにより、任意の層への選択的記録を実現する。計算の結果、各層の磁化と異方性磁場を適切に設定することにより、層間の静磁気的結合を考慮しても選択的記録が可能であることが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、3次元磁気記録の実現が可能な媒体構造を解明することが最大の目的である。媒体設計において解決すべき問題は下記の3点である。 (1)3次元磁気記録の媒体として用いるグラニュラー垂直磁化膜のマイクロ波アシスト磁化反転特性を調べ、結晶粒間の静磁気結合や媒体のダンピング定数の影響を明らかにする。 (2)多層構造媒体の層間の静磁気結合が3次元磁気記録に及ぼす影響を明らかにする。 (3)各層の記録周波数を記録ヘッドが発生可能なマイクロ波周波数限界以内にする。 (1)は、本年度までにすでに実験により検証されており、実用レベルのマイクロ波強度、周波数でグラニュラー媒体のマイクロ波アシスト記録が可能となる媒体の飽和磁化を明らかにした。さらに、(2)についてもマイクロマグネティクスの手法を用いた計算機シミュレーションにより、層間の静磁気結合を考慮した選択的記録が実現できる媒体の条件を明らかにした。(3)は、実験、計算機シミュレーションの両手法を用いて現在検討を進めている。全体研究計画の70%以上を3カ年計画の2年目終了時に達成しており、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前記の通り、当初研究計画に沿った研究成果が順調に得られており、研究計画の変更は特に必要ない。また、残す課題(実デバイス化に向けた記録周波数の低減)についても、計算機シミュレーションにより媒体の設計指針が明らかになりつつある。今後は、計算機シミュレーションによるさらなる検討を進めると同時に、磁気特性、構造の異なる媒体に対してマイクロ波アシスト磁化反転実験を行い、互いに結果をフィードバックすることにより、課題達成を目指す。
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