研究課題/領域番号 |
23360163
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
堀越 佳治 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60287985)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 太陽電池 / 超格子 / Si/SiO2超格子 / タンデム太陽電池 / 励起子吸収 / 分子線エピタキシー / スパッタリング / AlGaAs/GaAs |
研究概要 |
半導体超格子では超格子構造のもたらす量子効果のため、電子や正孔の準位はバンド端のエネルギーよりも上昇する。この上昇分は周囲温度の変化に対してほとんど変化しない。この理由は、このような量子化準位がおもに超格子の幾何学的な要素と電子、正孔有効質量によって決定されるためである。この特徴を太陽電池に応用すれば、動作中過酷な温度上昇に曝される太陽電池の温度特性を大幅に改善することができる。本研究はこのような着想のもと企画されたものである。これまでに原理確認のため高品質の超格子が得られるAlGaAs/GaAs超格子に着目して研究を進め、確かに高温における安定性が著しく改善されることを見出した。そこで次のステップとしてSi/SiO2 超格子にチャレンジした。最終的に狙う構造はSi/SiO2 超格子太陽電池とSi太陽電池のタンデム構造である。最も一般的に用いられるSi太陽電池上に高効率なSi/SiO2超格子太陽電池を組み合わせることができれば、太陽電池の世界に大きなインパクトを与える。 そこで今期は分子線エピタキシー(MBE)法、およびスパッタリング法を用いてSi/SiO2超格子構造製作の研究をすすめた。まず容易に構造を製作できる可能性のあるスパッタリング法を用い、Si井戸幅1~5nmの超格子を製作した。この結果予想通り井戸幅の減少に対応して吸収端は短波長にシフトし、かつ強い光吸収が得られた。しかしスパッタリングによる超格子は再結合中心の密度が高く、効率の良い太陽電池の実現には至っていない。一方、製作法はやや困難だが質の良い結晶が期待できるMBE法によってもSi/SiO2超格子の成長を試みた。スパッタリングの場合同様構造制度の高い超格子を実現したが、MBE法の場合SiO2層が著しく酸素不足であることが判明した。この問題を解決するため、現在熱処理を中心とする研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超格子を利用して温度安定化を図る着想は初めてのものであり、このため高品質結晶を作りやすいAlGaAs/GaAs超格子を用いて原理確認のための研究を進めてきたが、その考えが正しいことが実験によって裏付けされた。具体的にはAlGaAs/GaAs超格子太陽電池の摂氏100℃までの温度における効率の劣化は0.22%/℃と小さい値であった。通常のpn接合太陽電池の場合最もよいものでも0.3%/℃である。 さらに次のステップとしてSi/SiO2超格子の製作にチャレンジし、スパッタリング法による超格子について量子効果と励起子吸収による光吸収効率の改善を確認した。またMBEによるSi/SiO2超格子の問題点を明らかにし、今後の研究の方向をはっきりさせている。
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今後の研究の推進方策 |
スパッタリングによって製作したSi/SiO2超格子については今後超格子におけるミニバンドを介した電子(正孔)の輸送現象の研究、および発光特性の研究を進める。この研究によって超格子結晶およびヘテロ界面における再結合中心の研究を進め、最終的にはそれらの不活性化を目指す。 一方分子線エピタキシー(MBE)法によって成長したSi/SiO2超格子については、酸素欠如の原因を明らかにすることにより、この現象がMBEに本質的なものであるかどうかを確認する。さらに成長後の熱処理により、超格子の各層におけるSiとSiO2の層分離を促進し、良質な超格子の実現を目指す。
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