研究課題/領域番号 |
23360172
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
大濱 靖匡 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (20243892)
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研究分担者 |
得重 仁 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 講師 (50336921)
渡辺 峻 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 助教 (70546910)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 多端子情報理論 / 多入力多出力通信網 / 乱数制約 / 伝送率・あいまい度領域 / コグニティブ無線 |
研究概要 |
1. 秘密通報を持つ2利用者放送通信路についての研究: 送信信号をXとし,放送通信路からの出力信号をY,Zとする.Yを得る受信者を受信者1,Zを得る受信者を受信者2とする.送信者は,受信者1,2へ宛てた共通情報ならびに受信者1のみへ宛てた秘密情報を送信信号Xに載せて送る.信号Zが与えられた下での秘密通報の条件付きエントロピーを安全性の尺度とする.これをある決められた値以上とする条件の下で,高信頼度で送信できる秘密通報のビット数R_1,共通通報のビット数R_2の組(R_1,R_2)の占める領域を伝送率・あいまい度領域(Rate Equivocation Region) とよぶ.この問題は,Csisz\'ar and K\"orner (1978)が研究し,伝送率・あいまい度領域を決定した.従来研究では,安全性を高めるために用いる撹乱用一様乱数に対する情報量制約がない.これは撹乱用一様乱数が無尽蔵に利用できることを意味し,現実的ではない.ここではより現実的な仮定として,撹乱用一様乱数の情報量にある決められた上限が設けられている新しい設定を導入し,この設定の下での伝送率・あいまい度領域の具体形を求めた.また,得られた結果の干渉型コグニティブ無線通信路への拡張に成功した. 2.補助情報を伴う情報源符号化問題について,伝送率領域の補集合が,ある種の乱数生成問題の解としての特徴づけられることを見出した.この乱数生成問題における符号化順定理が補助情報源を伴う符号化問題の符号化逆定理の証明と本質的に同一で,符号化逆定理の証明が,補助情報を伴う符号化問題の順定理と本質的に同一であるという事実を導いた.また,補助情報を伴う情報源符号化問題について,領域の外での復号誤り確率が1に近づく速さが,乱数生成の近似誤差として,操作的な意味を持つことが判明し,この近似精度を明らかにする問題を提起した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論面の研究に,おいて,乱数制約の下での通信の安全性の研究は,当初完全解決が難しいと予想していたが,これが,予想外の進展で,完全解決を得ることに成功した.また,通信の性能限界を表す許容伝送率領域の外側での誤り確率の振る舞いが,ある種の乱数生成問題の乱数の近似誤差に関与することを見出した.これはまた,新しい問題を提起することとなった.本研究課題において,理論面は,著しい研究成果を上げている.それだけでなく,今後の理論研究の重要な発展につながりうる新しい問題が提起された.以上のことから,研究課題の理論面に関しては,評価(1)の当初の計画以上に進展しているという評価に該当すると考えられる.応用面は,現在,実験環境の整備にあり,やや遅れている.全体を通して,総合的に評価すると区分(2)のおおむね順調に進展しているという評価になる.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度を考慮し,今後の研究の推進方針としては,遅れのみられる応用面の研究を推進し,全体としての当初の目標を超える達成度を実現することを目標の一つとする.その一方で,理論面においては,通信の理論限界の解明から,新しい問題提起が提起された.この問題を考察するには,新しい道具立てが必要になる.現在,まだ研究発表できる段階ではないが新しい道具立ての開発の鍵を握る結果を得た.この研究を発展されることにより,通信の理論限界を解明するための新理論の展開が,期待できそうな状況にある.この理論展開が成功すれば,これは、世界初の全く新しい技術を提供することになる.このように,現在理論面については,研究の急展開を生みそうな状況にある.是非ともこの方向の研究にも力を注ぎたい.理論,応用それぞれにつき,研究推進の具体的方策は以下のとおりである. 理論面:縦列接続型の符号化システムの研究を行いさらに,並列,縦列の混合型の通信ネットワークの研究へと発展させる.また,新理論構築の研究に力を注ぐ. 応用面:本年度,研究代表者の所属する講座に本格的な通信シミュレータが導入された.センサ数が3,4個程度の場合については,構築したシステムにより実験が可能である.まず,構築したシステムにより実験を行う.この結果に基づき,より多数のセンサノードの場合,より複雑な通信形態になった場合の通信の物理環境の推定を行う.得られた推定結果を基に通信シミュレータを用いた大規模センサネットワークシステムの通信実験を行う.得られた実験結果より,理論成果の実際の通信システムにおける有効性について検証する.
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