研究概要 |
心不全・心筋梗塞等重篤な心臓疾患では,心臓壁の心筋細胞に障害が出ると言われているが,現状ではその特性変化をベッドサイドで計測できる非侵襲診断方法や装置がない.そこで本研究では心筋の特性に関する非侵襲的診断法の確立を目的とする.このため,従来,本研究者は心臓壁振動計測時のエイリアシングを防ぐため,超音波ビームを10方向に限定して高速走査し,壁内に設定した約150点での振動v(t)の同時計測を実現してきた.各点の振動波形v(t)にフーリエ変換を施し,振動v(t)が心臓壁上を伝播する時間遅れに対応する位相遅れを算出し可視化した.さらに,その伝播を,心臓壁を粘弾性板としたときのラム波でモデル化し,伝播速度の分散性を,計測データと整合させ心臓壁の粘弾性特性を推定した.しかし,高速走査により空間分解能が低下し,振動伝播を心臓細部にわたって高精度に描出するには,現状では空間分解能が不十分である.そこで,本年度は次の2つの課題を実施した. (1)超音波ビームの高速走査を保ったまま空間分解能を向上させる方法と実現した.セクタ走査プローブにおける帯状走査に関して,(1)分割する扇形の数,(2)本研究の振動波形計測における最適化方法,(3)計測の限界の理論的・実験的評価を詳細に検討し,超音波ビームの高速走査を保ったまま,空間分解能を向上させる方法と計測システムへの実現を図った. (2)必要なソフトウェアを超音波ディジタル計測装置に組込み,独自の計測システムを構築し,心臓壁内各点から反射・散乱波を算出し,各点での振動波形v(t)を算出した. これらの結果によって,空間分解能を向上させ,伝播速度の計測精度も向上し,心筋の粘弾性推定精度も上げることができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各点での振動波形を算出するだけでなく,微小な厚み変化を算出する際に,超音波ビームに沿ったRF波形の位相変化の空間微分を高精度に求める必要があるが,この厚み変化が非常に微小であるため,その算出に関し,さらなる高精度化を検討する必要があることが分かった.この課題は,このようなRF波形の高精度計測を行うことで初めて分かった知見である.
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今後の研究の推進方策 |
微小な厚み変化を算出するために,超音波ビームに沿ったRF波形の位相変化の空間微分を高精度に求めるための検討を理論的・実験的に慎重に行う.この対策によって,後段の処理である,振動波形v(t)の算出,その周波数解析による位相速度の決定が容易になるものと考えられる.
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