研究課題/領域番号 |
23360210
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
坂本 康 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (80126648)
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研究分担者 |
西田 継 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (70293438)
原本 英司 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (00401141)
石平 博 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (80293439)
森 一博 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (90294040)
田中 靖浩 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (50377587)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2014-03-31
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キーワード | 水質水文学 |
研究概要 |
本研究では、水文循環の変化が水源の安全性に与える影響を予測するために必要な微生物水文学手法の開発を最終目的として、平成24年度は下記を行い成果を得た。 1.降雨時の病原微生物流出機構の解析(担当:西田、石平、原本):平水時および降雨出水時の河川水の微生物量を観測し、降雨出水イベントが与える影響を検討した。対象は、健康に影響する水源を有する荒川とした。平水時および降雨出水時に経日的な採水調査を行った結果、降雨時には健康関連微生物の濃度が最大で25倍以上に上昇することを明らかにした 2.地下水微生物汚染の同位体水文学・水質統計学的解析(担当:坂本、西田、原本):地下水の季節変化について、同位体と一般水質の両者を用いた解析が、汚染機構解析に有効であることを示した。また、ネパールのカトマンズ盆地地下水の微生物汚染について、大腸菌濃度と硝酸イオンの同位体比との関係、雨季の水文過程が大腸菌濃度を高めていること、下水設備からの距離の影響を明らかにした。 3.自然由来と人間由来の流出の判別に役立つ微生物指標の開発(担当:森、田中、石平) 1)森林・農地の微生物負荷特性の解析(担当:田中):農地が流域全体の0-3%となる渓流河川を対象に、森林域河川の微生物群集解析を行った。その結果、各微生物種の分布率を用いたクラスター分析の結果と硝酸イオンの同位体比との対応を見いだし、微生物群集解析と同位体分析を組み合わせることで、土地利用状況だけでは把握できない農地等からの微生物流出プロセスの推定が可能であることを示した。 2)植生系根圏における微生物動態の解析(担当:森):季節により根圏に分布する微生物群集に変化が見られるかどうかを、公園内人工池のウキクサを対象に、遺伝子レベル(T-RFLP法)で解析し、微生物種の数と分布率を用いたクラスター分析により8月(夏)と10月(秋)とで微生物群集が異なることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地球温暖化の影響で世界の水文環境が変化することが予想されている。この変化に対し、洪水の頻発化などの治水面での影響の研究は多数行われているが、利水の質の面での影響の研究は多くはない。しかし、水文循環は物質の移動を駆動するシステムとしても重要であり、水文循環の変化は病原菌などの移動を通して水資源の質的変化を引き起こすおそれがある。そこで、本研究では、水源安全性評価の分野での水文学の応用範囲を広げるという全体構想の下で、同位体、分布型水文モデルなどを使った水文解析と病原微生物の解析を結合し、水文循環の変化が水源の安全性に与える影響を予測するために必要な微生物水文学手法の開発を目的とする。 この、水の安全性の評価に必要な微生物解析を、水文学の応用分野として取り込むという目的に沿って、具体的には、1)河川への流出、地下水への浸透という水文過程とその過程による微生物の移動、2)水文過程の解析に役立つ新たな微生物指標の探索とその指標に及ぼす植物の影響を対象とした研究を行っている。その結果、いづれも、従来の水文解析にはないチャレンジングな研究ではあるが、貴重なデータを得ることができ、新たな発見も生まれている。この点で、おおむね順調に進んでいるといえる。ただし、それぞれ自然を相手にする研究で、かつ微生物には自然環境の相違が影響するために、さらに長い期間の調査によりデータを蓄積することと、そのデータを水文学の視点で整理することが必要であり、これらが研究期間の最終年度である次年度の課題といえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の次年度は、1)長い期間の調査によりデータを蓄積すること、2)そのデータを水文学の視点で整理することを、3つの分野で推進する。 1.降雨時の病原微生物流出機構の解析(担当:西田、石平、原本):今年度までのデータでは、流量などの水文データに比べ、微生物データの時間間隔が長く、両者の結合が困難であるという問題があった。そこで、平水時および降雨出水時の河川水への健康関連微生物の流出を、降雨出水イベントごとの降雨出水時短時間の濃度と微生物遺伝子マーカーの変動として観測し、水文学的視点で結果の検討を行う。 2.地下水微生物汚染の同位体水文学・水質統計学的解析(担当:坂本、西田、原本):カトマンズ盆地で重要な水源となっている浅井戸を対象にし、複数年継続した調査の結果を総合・整理する。これにより、糞便汚染指標微生物出現の季節性、および安定同位体比や溶存化学成分等の多角的指標を用いた汚染水混入率推定法を検討し、水文環境と地下水微生物汚染との関係を検討する。 3.自然由来と人間由来の流出の判別に役立つ微生物指標の開発(担当:森、田中、石平) 1)森林・農地の微生物負荷特性の解析:本年度は林地の河川の微生物解析は行えたが、農地からの流入に由来する植物病源微生物は検出できなかった。次年度は農地が多く分布している地域の河川、農業用水路等を対象とした微生物群集解析を行う。そのため、新たに、ターゲットとする植物病原菌に由来する遺伝子に特異的なプライマーを用い、植物病原菌の網羅的検出・定量を行い、森林河川との相違を明らかにする。2)植生系根圏における微生物動態の解析:本年度は、根圏に形成する微生物群集の季節による相違を発見したが、その要因は不明であった。そこで、次年度は、根圏微生物群集の経時変化を細かく追跡・解析し、化学的指標との相関を検討し、指標としての根圏微生物群集の有用性を検討する。
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