前年度に引き続き,感潮河川である太田川放水路と三次市の江の川(山地・礫床河川)で河川音響トモグラフィーシステム(FATS)による流速・流量の連続計測を実施した.太田川放水路では,放水路上流端にある祇園水門が全開となる出水4回発生した. FATSで計測できた最大の分派流量と断面平均流速はそれぞれ,700m3/sと1.5 m/sで,出水中に一時的に欠測となることがあった.欠測の原因は流砂にトランスデューサーが埋もれてしまったことが原因だと考えられた.江の川では20~700 m3/sの流量範囲でADCP横断計測結果と良く一致した. 長い伝播距離がとれる太田川高瀬堰貯水池において, 10 kHzと30 kHzの2周波実験を行った.高瀬堰貯水池両岸のトランスデューサー間の直線距離は620 mであった.10 kHzと30 kHzとも低水時の高瀬堰の操作による水位低下によるSN比の低下が見られ,水深が音波の波長の10倍より小さくなると,音波の伝播損失が著しく大きくなることが明らかとなった.水位変動にともなうSN比の変動幅は非常に大きく,10 kHzで10~35 dB,30 kHzで5~30 dBであった.太田川流量が820 m3/s,観測地点の濁度が102 ppmの出水時,30 kHz音波は伝播損失が大きく流速は計測できなかったが,10 kHz音波ではピーク流速(約2 m/s)の計測に成功した.10 kHz音波に対する30 kHz音波の伝播損失は約2倍であった. 水深が浅い場合,音波の伝播損失に与える水深の影響が非常に大きいことから,水深が大きく高濁度の中国銭塘江で実験を行い,音波の伝播損失が浮遊土粒子による粘性吸収から予想される理論値とほぼ一致することを確認した.
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