研究課題/領域番号 |
23360218
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森杉 壽芳 東北大学, 情報科学研究科, 名誉教授 (80026161)
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研究分担者 |
河野 達仁 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (00344713)
武藤 慎一 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (90313907)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 資源としての時間価値 / 商品としての時間価値 / 人流・物流 / 観測可能性 / 費用便益分析 / 時間価値のミクロ経済学 / 時間短縮便益 / 物流の時間価値 |
研究概要 |
1.離散選択モデルのおける資源としての時間価値と商品としての時間価値 (1)理論分析:第1に所得制約と時間制約の下で複数の離散選択を行うモデルの定式化を行った。第2に時間価値を最大効用の期待値(S)一定下における任意の選択枝の価格と所要時間の限界代替率で定義した。第3に資源(商品)としての時間価値を最大効用の期待値(S)一定下における所得と利用可能時間時間(特定の選択肢の商品としての所要時間)の限界代替率で定義した。このとき資源(商品)としての時間価値は,分子が[選択確率x選択肢の効用の総利用可能時間微係数(商品としての所要時間の限界効用)]の和,分母が[選択確率x選択肢の効用の所得微係数(商品時間価値の場合も同じ)]の和の比になることを証明した。第4に任意の選択肢の総時間価値は上記資源としての時間価値と商品としての時間価値の和であることを示した。第6に資源としての時間価値は、選択肢のいかんにかかわらず等しいことを示した。第7に従来の研究は特定の選択の確定効用水準一定下でのその選択肢の価格と所要時間の限界代替率で定義していること。そして、それは特定の選択を前提とした定義であるから便益の計測に使用することができないことを示した。 (2)実証分析:既往の研究のメタ分析により、時間価値の値の範囲と理論的に正しい時間価値の定義に沿った分析であること等の検討をおこなった。たとえば、コンテナーの時間価値をルート選択のモデルより計算している例があるが、これは、結果として荷主の商品としての時間価値を推定していることになる。ただし、ルートごとの確定効用の価格と所要時間の微係数が異なるときには間違っていることを指摘した。 2. SCGE研究 (1)主要ネットワークの(ODではなく)ルートに対する交通需要と運送業を定式化した。(2)プロジェクトによって生成される商品としての時間価値関数の特定化を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論分析については計画調書の作成時と交付申請書の作成時に定式化を試みた。このため、離散選択の公式の誘導は順調に行うことができた。また、前年度に個人の連続選択の理論モデルを完成させていたので、離散選択においても個人モデルにおいては連続モデルと同様の公式が成立するとの予想を立てることができた。企業の離散選択行動モデルと時間価値の定義とその需要関数による定式化には成功していない。また交通供給者の時間価値の定義と観測可能性は、交通供給者を選択肢ごとに存在するという仮定を置くことが素直であるので、これは昨年度の成果をそのまま適用できた。 時間価値観測実証分析については、従来の研究における時間価値の計測について言及することができた。ロジットモデルに基づく既存の研究のほとんどすべてが特定選択を前提とした条件付きの商品としての時間価値の推定であること。また資源としての時間価値と商品としての時間価値の両者を分離して定義・計測した事例は皆無であることが判明した。 SCGE実証分析の成果は以下のとおりである。従来交通配分モデルは有料道路と無料道路の配分をロジットモデル型転換率曲線を用いて計算していた。しかし、計算結果が現実からかい離していた。そこで、本研究では、CES型の転換率曲線に基づき再計算を行った。適切なパラメータを設定すると従来の研究と異なり現実のデータをかなりの精度で再現できることを示した。これは、CESがパラメータの値で転換率を自由に表現できる性質を利用した結果である。その結果交通部門の明示的な導入に成功した。そして交通部門の生産関数が交通所要時間に関する0次同時性を導入して時間節約便益を計算することに成功した。この点については前年度と同様である。
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今後の研究の推進方策 |
理論分析(1)商品としての時間価値の一般化:時間を含む効用関数形を一般化にした場合の商品の時間価値を需要関数で表現する。(2)時間のミクロ経済学(スルツキー方程式)の確立:需要、時間価値、時間価値需要の価格と時間にかんして成立する拡張スルツキー方程式を定式化する。(3)利用者便益への応用:利用者便益を所得の限界効用比*市場(補償)需要関数の価格の消費者余剰と市場(補償)時間需要の時間に関する消費者余剰の和で表現。それを2次近似した式に拡張スルツキー方程式を適用して観測可能な(時間)需要関数の台形公式の成立(4)交通事業部門における所要時間分析:所要時間を生産する場合(鉄道)と所与の環境とする場合(自動車)の峻別、前者の最適な時間供給の定式化。費用関数を所要時間の関数で表現することと時間変化の限界費用のよる時間価値の表現。価格変化の利用者不便益+生産者余剰+費用節約による交通事業者の時間節約時間便益の表現(森杉)。 実証分析・SCGE(1)2重制約下の需要関数の導出の試み:対数線形の効用関数の下で余暇時間、合成財、交通の3財の場合の需要関数の導出を試みる。価格比と時間比に関してゼロ次同時性を検討する。時間価値(資源)の時間価値関数の明示。商品の時間価値を導くために効用関数のパラメターを所要時間の関数としたときの需要関数の導出。商品としての時間価値関数の明示を行う。(2)貨物の時間の効用関数と生産関数への組み込みの特定化(3)所要時間生産費用関数の特定化の試み(4)社会的純便益の計測公式:ショートカット理論の確立、一般に価格変化の便益はキャンセルアウトすること。収穫一定の場合には生産者余剰がゼロになること。自家用交通の場合には時間変化の利用者便益がゼロとなることを導く(河野、武藤)。
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