「運転は脳が司る、だから脳を調べる」という研究ストラテジーに則り、個人差が大きい高齢ドライバーの運転能力を脳MRIで診断される脳組織変化(白質病変グレード)で評価した。白質病変は動脈硬化疾患と関連があり、脳老化の徴候と見なされるが、健常中高年の約30%にも認められる。3930名の健常中高年脳ドック受診者から、交通事故タイプ別の事故歴を聞き取り調査して、白質病変グレードと照合した。白質病変は、大脳半球両側に存在するグレード2から交通事故歴(交差点事故に特異的)に有意の高い相関性を認めた。65歳以上の高齢者では、非高齢者群と比較してより顕著に交差点事故との相関性を認めた。さらに、高知県警察免許センターの協力下に、高齢ドライバーに暗算計算をさせながら免許センター内の走行コースを実車運転をさせるマルチタスク負荷条件を課し、ハンドルステアリング量を計測して、白質病変の有無で2群間の比較を行った。白質病変(グレード2以上)を有する高齢ドライバーは、有しない群と比較して右折時のハンドルステアリング量が有意に増加していた。即ち、注意分散させると白質病変を有する高齢ドライバーではハンドル操作のぎこちなさが観察された。白質病変は、前頭前野の大脳白質が好発部位であり、高次脳機能を担う注意機能との関わりが示唆された。パソコン上で、注意機能を認知・判断・操作の3要素から定量的に評価できる運転脳力テスト(Driving Ability Test:DAT)を新規開発した。DATを用いて、事前に事故歴を聞き取り調査できた健常中高年脳ドック受診者の注意機能を評価すると、高齢者かつ白質病変を有するグループで種々の交通事故対応との有意の相関性を認めた。
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