研究課題/領域番号 |
23360254
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂本 慎一 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (80282599)
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研究分担者 |
横山 栄 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (80512011)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 音場シミュレーション / 波動数値解析 / 指向性 |
研究概要 |
室内外の音響伝搬、遮音・吸音、音源および受音の指向特性の影響を考慮可能な波動数値解析を、3次元音場シミュレーション技術と統合し、精緻な音場再生シミュレーションシステムを構築することを目的として研究を行っている。このシステムにより、受身のスタンスで「聴く」だけでなく、対話等の双方向コミュニケーションの視点から音場を評価することを可能とするシステムを目指す。今年度は下記の項目について検討を行った。 リアルタイム合成―再生システムの試作 受聴者の向きを自動感知し、その方向に応じて両耳の方向別インパルス応答(HRIR)と音源信号をリアルタイムにたたみ込み、イヤホンやヘッドホンに出力するPCベースのシステムを試作した。また、ダミーヘッドの標準耳介、および実耳より作成した耳介モデルを対象として方向別インパルス応答のデータベースサンプルを測定し、方向感に関するシミュレーションシステムの動作を確認した。 音源指向性に関する波動数値解析手法の定式化 波動音場解析において、任意の指向性を入力可能とするための解析手法について検討を行い、定式化した。再現したい指向性データを基に球面調和関数の直交性を利用して各球面調和関数の成分比を算出できる理論を構築した。シミュレーションに球面調和関数の各成分を入力するためには、FDTDにおける初期条件として適切な空間分布を与えるとともに適切な時間応答特性を入力する必要があることを示し、時間応答の求め方を定式化した。標準ダミーヘッドの発音指向性データを対象として、以上に定式化した理論の検証を行った。 バイノーラル室インパルス応答の利用 耳介の形状モデリングの手間や、HRIRおよびHRTFの個人差を考慮して、HRIRデータベースを用いた室インパルス応答の解析システムに関する検討に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人の向きを感知するセンサーと、向きに応じてたたみ込み演算するデータを選択するプログラムとを有したリアルタイム可聴化装置の試作を行った。これにより、目標とするシステムも主要なハードウェアを準備できたと考えている。このシステムに入力するデータを取得するため、実耳介のモデルを複数作成した。そのうち一つのサンプルに関しては、方向別インパルス応答の測定を実験室にて行い、あわせて比較用のダミーヘッド標準耳介の方向別インパルス応答も測定した。詳細な物理的検討は未着手であるが、実験室での測定方法が獲得できたこと、測定に用いる複数の耳介サンプルが作成できたことは今後の検討を円滑に進めるために有効な成果であると判断している。 波動数値解析手法に関しては、任意の指向性データを基に球面調和関数の重ね合わせによって解析を行う手法を定式化し、計算機コード化することができた。指向性は周波数によって複雑に変化するが、過渡応答解析に対してディジタル信号処理の手法を援用して任意の周波数特性を反映できるようにする計算プログラムを作成した。以上の成果により、今後、実データを取得した上で可聴化システムに入力するまでの主要な要素を準備できたと考え、達成度を(2)おおむね順調に進展している とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、新たに着手したバイノーラル室インパルス応答(BRIR)の検討を理論と実験の両面から検討するとともに、昨年度試作したリアルタイム合成―再生システムの信頼性向上やより臨場感の高いシステムとするための指針検討を行い、システムの完成度を高める。 バイノーラル室インパルス応答の応用に関する検討 室の応答(Room Impulse Response:RIR)は波動数値解析により頭部の影響を含めずに求めておき、それに個人の頭部インパルス応答(Head Related Impulse Response:HRIR)を合成する手法について理論と実験の両面から検討を行う。これは、初年度に行った、標準頭部(耳介を含む)をモデリングする手法と対極に位置する考え方であり、HRIRの無視できない個人差wお考慮し、これに対応するための手法である。まず、波動数値解析においては、音圧応答とともに音波の到来方向をリアルタイムに識別するプログラムを作成する。また、別途、方向別のHRIRを受音点の音波伝搬履歴および入射方向データに基づいて適切に選択・合成する手法を開発する。作成した解析スキームの精度および適用性を検証するため、実験室内における物理実験との比較による物理量レベルでの精度検証、および、実験室内で採録した音信号を用いた聴感実験による再生システムとしての心理量レベルでの精度検証を行う。 リアルタイム合成―再生システムの応用 上記聴感実験を含め、音の提示システムとして、リアルタイム合成―再生システムを用いた実験を行う。
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