研究課題/領域番号 |
23360257
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
下田 宏 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (60293924)
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研究分担者 |
石井 裕剛 京都大学, エネルギー科学研究科, 助教 (00324674)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 知的生産性 / 生理指標計測 / 数理モデル |
研究概要 |
平成24年度は、(1)照明環境を制御した被験者実験を実施するとともに、(2)作業-一時中断状態遷移モデルの精緻化を行った。さらに、(3)生理指標計測による状態判別実験を実施した。 (1)に関しては、従来のオフィスで主に使用されている全室照明型の蛍光灯照明(以下、アンビエント照明)と、エネルギー消費がアンビエント照明の約50%であるタスク&アンビエント照明の2つの照明環境について、平成23年度に開発した認知タスクを用いて被験者実験を行った。実験は3日間に渡って行われ、計19名の被験者(20~55歳、男性)が参加した。実験の結果を詳細に分析し、(2)作業-一時中断状態遷移モデルの精緻化を進めた。その結果、これまで、作業-一時中断状態の2つの状態が精神疲労の蓄積によって確率的に遷移すると考えてきたが、「作業状態」中にも短い時間の「短期中断状態」が発生することを確認した。さらに、短期中断状態への遷移は、精神疲労等によらず遷移確率が一定であり、それ故に認知タスクの1問あたりの解答時間が対数正規分布に近くなることがわかった。 (3)に関しては、前年度と同様に、30名の被験者に認知タスクを与えたときの脳波、心拍、瞬目、眼球運動、タスク操作を計測するとともに、今年度は新たに被験者の上体に姿勢を計測した。また、前年度はタスク実施中の30 秒ごとに(a)集中して作業する状態、(b)思考せずに指だけ動かす状態、(c)休憩(一時中断)状態の3つを順に実行してもらっていたが、今年度は与えるタスクを30分間の長時間タスクとして自然に入る一時中断状態を判別できるかどうかを調べた。その結果、正検出率は、無作為に検出した場合の正検出率(正検出率期待値)に比べて優位に高く(p< 0.001)、検出手法が有効であることがわかった。ただし、この手法で作業時間を求めるためには、さらなる判別精度の向上が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載の平成24年度の研究計画はおおむね実施した。ただし、音環境に関する実験ついては、交通騒音と漫才の音声を用いた予備実験を実施しただけである。一方、照明環境を制御した実験については、その実験結果を詳細に分析することにより、これまでの作業-一時中断状態遷移モデルでは考えていなかった「短期中断状態」が存在することを確認するとともに、その遷移確率について検討しており、知的生産性の新しい定量評価法となりうる可能性を示した。また、生理指標計測による状態判別手法の開発では、上体の姿勢を新たに計測するとともに、長時間の認知タスク中に自然に発生する一時中断状態の判別を試みた。ただ、判別精度については、さらなる改善が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では、知的作業者の状態を「作業状態」と「一時中断状態」の2状態に分類して、その各状態を遷移する数理モデルを提案していたが、平成23~24年度の実験結果を詳細に分析すると、「作業状態」中にも短い時間の「短期中断状態」が発生することを確認した。平成25年度は、これまで実施してきた照明環境を制御した被験者実験をさらに進め、この短期中断状態のメカニズムとその遷移特性を詳細に分析し、知的生産性の新しい定量評価法になりうるかどうかを検討していく。また、これらの被験者実験で使用している認知タスクは平成23年度に開発したものであるが、被験者実験を進めるうちに、環境感度とその安定性にばらつきがあることがわかってきた。この問題についても、どのような認知タスクが適当なのかについて検討していく。さらに、生理指標計測による状態判別方法については、新たに視線、瞬目計測装置を導入し、判別精度向上を目指す。
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