研究概要 |
熱電材料の性能は無次元性能指数ZT=S^2σT/(κ_<lat>+κ_<el>)で評価される.ここで,S,σ,κ_<lat>,κ_<el>は,それぞれ,ゼーベック係数,電気伝導度,格子熱伝導度,および,電子熱伝導度である.互いに相関するこれらの物理量を,他に影響を与えずに個別に制御することは難しいと考えられてきた.S,σ,κ_<lat>,κ_<el>を個別に制御する指針を構築し,構築した指針に基づき高性能熱電材料を開発することが本研究の目的である.今年度に実施した研究では,電気的な性質(S,σ,κ_<el>)は優れているが,格子熱伝導度κ_<lat>が大きいが故に実用化に至っていない材料((1)Si_2Ti型構造を有するAl-Mn-Si系合金と(2)Fe_2VAl系ホイスラー合金)を研究対象物質として選定した.いずれの材料も軽元素で構成されることから,構成元素を部分置換することで,フォノンの不純物散乱が増大し,格子熱伝導度が著しく低減されると予想した.また,これらの材料では室温以上における電気伝導度の温度依存性が弱く,電子の平均自由行程が十分に短くなっており,元素の部分置換による平均自由行程への影響は小さいと考えた.この状況下において,フェルミ準位近傍に置換元素により不純物準位が生み出されなければ,優れた電気的性質を維持したまま,格子熱伝導度のみを低減することができ,結果として,大きなZTが得られると判断した.この考え方に基づき,第一原理計算を駆使することで,対象物質の電子構造を詳細に調べ,適切な置換元素を特定した.さらに,特定した置換元素を用いて,構成元素を部分置換した試料を作製したところ,(1)Si_2Ti型構造を有するAl-Mn-Si系合金では,ZTを約4倍まで増大させることに成功し,(2)Fe_2VAl系ホイスラー合金では,約6倍に増大させることに成功した.いずれの材料も,ZT>0.25を示しつつ,かつ,耐酸化性に優れている.また,材料費が既存材料の1/10以下であることを考慮すると,十分に実用化可能な材料にすることができたと考えている.現在,さらなる性能の向上を目指して多層膜試料の作製を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究において,フォノン散乱における不純物元素の質量依存性を明らかにすることができた.また,これまでに培ってきた電子構造と電子物性の関係に関する知見と,今年度に実施したに礎研究の成果を用いて,熱電材料の性能を向上させる指針を高度化した.高度化した指針に基づき,実際に試料を作製することで,指針が正しいことを証明できたと考えている.また,最も重要な因子である超格子構造により誘起されるフォノン分散変調効果を利用した格子熱伝導度低減機構の解明と,それを利用した高性能熱電材料の創成についても研究を進めている.これまでに,幾つかの熱電材料に対してエピタキシャル成長した薄膜を作製することに成功しており,平成24年度以降に実施する研究により,十分な成果を報告できると考えている.
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