研究概要 |
擬ギャップ系ホイスラー化合物について,非化学量論組成と元素置換の相乗効果により熱電性能の大幅な向上を図るとともに,光電子分光によりフェルミ準位近傍の電子構造変化を直接調べて熱電特性向上の起源を明らかにすることを目的とする。得られた知見は以下のとおりである。 1.非化学量論組成Fe_<2-x>V_<1+x>Alをベースとして元素置換した合金において,p型についてはFeリッチ(x=-0.04)のFe_<2-x>(V_<1+x-y>Ti_y)Al合金でゼーベック係数は8=110μV/Kを示し,n型についてはVリッチ(x=0.05)の(Fe_<2-x-y>Si_y)V_<1+x>Al合金でS=-180μV/Kに達しており,いずれも化学量論組成をベースとする合金を上回る大きさである。 2.非化学量論組成の合金では余剰のFeあるいはVが互いのサイトを占有したアンチサイト欠陥が生じると考えられる。軟X線光電子測定により,異なるサイトの化学状態の違いを反映して,この欠陥由来の状態がアンチサイトFeあるいはVでそれぞれ価電子帯あるいは伝導体側の擬ギャップ内へ出現し,それぞれp型とn型の熱電能が発生すると予想された。 3.非化学量論組成Fe_2V_<1+x>Al_<1-x>合金において,Alリッチ合金はp型でゼーベック係数はS=100μV/K,Vリッチ合金はn型でS=-160μV/Kにも達する。さらにゼーベック係数のピーク温度はp型,n型ともに600K付近までシフトすることから,より高温の廃熱利用発電に応用可能である。 4.チョクラルスキー法により育成したFee_<2.04>V_<1.06>Al単結晶は,すべての結晶方位において負の磁気抵抗効果を示したが,[111]方位は[110]方位に比べて組成ずれに敏感であった。また,磁気抵抗効果の最大値は方位によらず,キュリー温度付近で最大となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非化学量論組成Fe_2VAl合金について,化学量論組成の場合よりもゼーベック係数の大幅な増大が認められ,さらにゼーベック係数のピーク温度が高温にシフトするなど新規の知見が得られている。また,単結晶の育成にも成功しており,局所構造,磁性,ゼーベック係数のかかわりを調べ,磁性系のゼーベック係数の振る舞いを深く理解することができる。
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今後の研究の推進方策 |
1.Fe_2VAlのV/Al非化学量論組成について,ゼーベック係数の増大およびピーク温度の高温化のメカニズムを明らかにする。また,AlサイトへのTa置換についてゼーベック係数の増大と同時に熱伝導率の低減を追求する 2.ハーフホイスラーZrNiSn化合物はフェルミ準位にバンドギャップを形成することが理論的に示されるが,結晶欠陥の存在により半金属的な電子構造をとる可能性がある。そこで,Fe_2VAlホイスラー化合物と同様に,擬ギャップ系としての熱電材料設計の可能性について検証する 3.非化学量論組成Fe_2VAl単結晶について巨大磁気抵抗効果が認められるので,薄膜の作製を試みることによりスピントロニクス材料として応用の可能性を検討する。
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