研究課題/領域番号 |
23360279
|
研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
西野 洋一 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50198488)
|
研究分担者 |
曽田 一雄 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70154705)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | ホイスラー化合物 / 擬ギャップ / 熱電変換材料 / ゼーベック効果 / 電気伝導 / 熱伝導 / 非化学量論組成 / 光電子分光 |
研究概要 |
擬ギャップ系ホイスラー化合物について,非化学量論組成と元素置換の相乗効果により熱電性能の大幅な向上を図るとともに,光電子分光によりフェルミ準位近傍の電子構造変化を直接調べて熱電特性向上の起源を明らかにすることを目的とする。得られた知見は以下のとおりである。 1. Fe2VAlのAlをTaで置換した合金Fe2VAl1-xTaxにおいて,電気抵抗率はTa置換とともに減少し,ゼーベック係数はn型でx=0.03では162microV/Kに達し,ピーク温度はx=0.12で560Kまで上昇した。この結果は,Fe2V1+xAl1-xのVリッチ合金の場合とほぼ同じである。Ta置換合金では,熱伝導率もx=0.12で8.5W/mKまで低下し,無次元性能指数は470K付近でZT=0.22という大きな値となった。 2. Fe2VAlのVを同族元素のTaで置換したFe2V1-xTaxAlについて熱電特性を評価した結果,x=0.12では熱伝導率を10.1W/mKまで低減できた。Ta置換により電気抵抗率は大きな変化は示さないが,ゼーベック係数はp型で絶対値がわずかに増大した。リートベルト解析によりTaはVサイトを選択占有することを確認した。 3. Fe2VAlのFe/Al非化学量論組成の合金ではFeリッチ側で擬ギャップ内電子状態が出現するが,Alリッチ側では擬ギャップ内状態は出現せず,それぞれn型とp型の熱電能を示すとともに,過剰のAl添加によってFe副格子内Alの無秩序性から電気伝導度の減少が生じると推察された。 4. ハーフホイスラー化合物ZrNiSnの高分解能光電子分光測定の結果,半金属的な擬ギャップ構造が確認された。さまざまな格子欠陥を仮定したバンド計算を行って実験結果と比較した結果,空孔サイトにNiが侵入型欠陥として存在するため半金属的な電子構造が形成されると結論した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Fe2VAlのAlをTaで部分置換した合金について,V/Al非化学量論組成のVリッチ合金と同様にn型としてゼーベック係数が増大すると同時にゼーベック係数のピーク温度が高温にシフトすることを明らかにすることができた。さらに,Ta置換により熱伝導率も大幅に低減することができたために,無次元性能指数としてZT=0.22を達成しており,新規熱電材料として極めて有望である。以上の研究成果から判断して,おおむね順調に進展していると言える また,元素置換した合金では置換元素のサイト選択性が物性に大きく影響する。そこで,放射光による高分解能粉末X線パターンに対してリートベルト解析を行った結果,Fe2VAlのTa置換では100%Vサイトを占有することを検証した。この結果は,今後,AlのTa置換合金におけるTaのサイト占有を検証するうえでのベースとなる。さらに,ハーフホイスラー化合物ZrNiSnについてリートベルト解析を行ったところ,空孔サイトをNiが侵入型欠陥として存在することを見出した。このため,バンド計算の結果とは異なり,半金属的な擬ギャップ構造を形成する可能性を明らかにしたが,この結果は当初の計画では予想していなかったことである。Fe2VAl系と同様に擬ギャップ工学の手法により元素置換を行うことで熱電性能の向上が可能になれば,熱電材料設計法としての有用性を明らかにすることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
1. Fe2VAlにおけるFe/V,V/AlおよびFe/Al非化学量論組成の合金について高分解能光電子分光測定によりフェルミ準位近傍の電子構造の変化を調査し,非化学量論効果によるゼーベック係数増大の起源を統一的に明らかにする。 2. Fe2VAlのV/Al非化学量論組成の単結晶について角度分解光電子分光測定を行い,フェルミ準位近傍のエネルギー分散関係を直接観測してゼーベック係数の増大およびピーク温度高温化のメカニズムを解明する。 3. Fe2VAlのV/Al非化学量論組成またはAlのTa置換によりゼーベック係数のピーク温度が高温側に系統的にシフトする。そこで組成を系統的に変化した合金を組み合わせて組成傾斜素子材料を開発し,幅広い温度分布がある場合にも効率的な発電効果が得られることを検証する。 4. 元素置換によって格子熱伝導率をある程度は低減できるが,微細結晶粒による効果 (粒界でのフォノン散乱)がより有効である。比較的大きな出力因子を示す合金系について,遊星型ボールミルにより粉砕した微細粉末を用いてホットプレス法により焼結体を作製する。高いゼーベック係数をもつ焼結体において,電気伝導率への影響を最小限にして格子熱伝導率のみが大幅に低減するような焼結プロセスを確立できれば,実用化の目標値ZT=1を達成することも可能になる。 5. ハーフホイスラー化合物ZrNiSnにおいて半金属的な擬ギャップ構造が形成されることを利用して,Fe2VAl系熱電材料と同様に擬ギャップ工学による熱電材料設計の有効性を検証する。
|