研究課題/領域番号 |
23360281
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西田 稔 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (90183540)
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研究分担者 |
光原 昌寿 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (10514218)
板倉 賢 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (20203078)
FARJAMI Sahar 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (20588173)
波多 聡 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (60264107)
原 徹 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (70238161)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | オメガ(ω)変態 / β‐チタン合金 / β‐ジルコニウム合金 / 電子線トモグラフィー / 収差補正HAADF-STEM / 結晶学 |
研究概要 |
金属物性分野の主要な研究課題である相変態現象の中でも多様な特徴を持つβ-Ti, Zr合金におけるω変態の本質を3Dトモグラフィー,収差補正HAADF-STEM等の次世代電子顕微鏡法よって結晶学と材料組織学の観点から多次元的に解明し,さらに,得られた結果に基づきω変態の制御による材料機能創出の可能性を探ることを目的として,当該年度では基礎的事項にあたる「1. 焼入,時効,応力誘起ω相の結晶学的特徴」,「2. 焼入,時効,応力誘起ω相の実次元解析」に加えて「3. ω相の結晶学的特徴と形態に及ぼす材料学的諸因子の検討と形態制御」,「4. ω変態の機構解明」について実験的研究を行った. 項目1についてはHAADF-STEM観察よりω相に特徴的なダンベル構造の原子変位uの測定を行った.まず,マルチスライスシミュレーションを用いて,u = 0.5(1/2):hcp構造から0.6667(2/3):bcc構造まで変化させたuに対するHAADF像の計算を行い,uの変動が0.01程度であれば測定できることを示した.その結果uはβマトリックス近傍から内部に向かって緩やかに変動することが知られた.また,ω相中にω相の構造からは想定できない特異なコントラストを持つ部分が存在することを発見した.マルチスライスシミュレーションの結果,このコントラストは試料方位のずれや別の相の重なりなどから起こりうるアーティファクトではなく,この位置に原子がない状態では現れず,ω相の原子位置とは異なる新たな結晶構造が存在する可能性があることを示す興味深い結果が得られた. 項目2~4については電子線トモグラフィーとHAADF-STEM観察より,ω相の形態(紡錘状,回転楕円体,塊状,立方体等)と変態機構に関連があることを示唆する結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記載したように,ω相に特徴的なダンベル構造の原子変位uの定量的評価によってマトリックス界面から内部にかけてuが連続的変化することを明らかにし,さらに,ω相内に従来とは異なる結晶構造を有する相の存在を示唆する興味深い結果が得られた.この2つの成果はいずれもω相変態の研究において学術的価値の高いものであると自負している.しかし,24年度はこれらの解析に多くの時間を費やしたため,当初予定していた拡散対を利用した実(多)次元解析や,ω/β界面の歪分布の測定が実施できなかった.また,学術論文の投稿も滞ったため,自己点検としては「(3)やや遅れている」との評価が妥当であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
24年度までに実施した,1. 焼入,時効,応力誘起ω相の結晶学的特徴,2. 焼入,時効,応力誘起ω相の実次元解析,3. ω相の結晶学的特徴と形態に及ぼす材料学的諸因子の検討と形態制御,4. ω変態の機構解明において,以下の事項を精査する. 項目1については,引き続きHAADF-STEM観察の結果よりω単位胞内における原子変位量(u)を系統的に調査する.項目2については,連続的に変化する組成,温度,時間に関する実(多)次元情報を得るために,組成傾斜試料(拡散対)を使用する.具体的には純Ti/Ti-40Nb,純Zr/Zr-40Nb拡散対を作製し組成傾斜域に生成するω相の結晶学的特徴や形態を直交配置型FIB-SEMによるSlice and View法によって調査する.項目3については,結晶学的特徴と形態に及ぼす材料学的諸因子の検討と形態制御においては,ω/β界面の歪分布を調査する.項目4については,マイクロカロリメーター型EDX-TEMなどを駆使して変態に伴う組成変化の情報を得ることにより,焼入,応力誘起および時効ω相の生成において変位型相変態が主要な機構であるのか,スピノーダル分解的現象が先行するのか,あるいは,マッシブやベイナイト変態の要素を持ちながら生成するのか明らかにする.項目5については,貴金属系形状記憶合金では熱弾性M変態に先立ってω相と同様の回折現象を起こす微細な変態生成物が現れることが知られている.多くの研究が1970~80年代に実施されたものであり再考の必要がある.本項では主にHAADF-STEMによって上記の変態生成物の結晶学的特徴を調べ,ω相との類似点,相違点を調査する. 本年度は最終年度に当たるため,以上の結果を総括し微細構造解析の立場からω相変態の学理を再構築し,それを利用した材料機能創出の可能性を探る.
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