研究課題/領域番号 |
23360284
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
坂本 渉 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 准教授 (50273264)
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キーワード | 強誘電特性 / 磁気的特性 / 薄膜作製 / 固溶体形成 / リーク電流特性 / 機能元素ドープ / 欠陥構造 / 光電子分光法 |
研究概要 |
平成23年度は主に、(1)化学的に制御された溶液を用いる方法によりBiFeO_3系ペロブスカイト型酸化物固溶体薄膜に関する作製プロセスの最適化を行い、(2)作製した薄膜の電気的・磁気的特性評価に関する検討を行った。また、(3)マルチフェロイック特性発現の鍵を握る機能元素の状態解析法についても検討した。(4)磁気・電気相互作用については、走査型プローブ顕微鏡を応用した評価を中心に基礎検討を行った。 (1)については、BiFeO_3-ABO_3化合物系固溶体の設計と薄膜作製について、溶液中での化学反応を十分に考慮した複合金属-有機化合物の前駆体溶液を用い、薄膜コーティング条件および加熱処理条件など作製条件を最適化することにより、ペロブスカイト単相のBiFeO_3化合物系薄膜(ABO_3化合物としてPbTiO_3,BoTiO_3,Bi_<0.5>Na_<0.5>TiO_3などを選択)の作製に成功した。また、(2)については、絶縁特性(リーク電流)に関する挙動と薄膜中の欠陥との関係を調べるため、作製したBiFeO_3系薄膜に関する電気容量特性、強誘電性、リーク電流特性など電気的特性および磁場中での磁化挙動の評価を行い、特に薄膜の絶縁性を向上させる機能元素としてのMnの選択およびそのドープ効果について検討し、最適ドープ量を明らかにした。さらに、薄膜中の金属陽イオンの価数が影響を及ぼす欠陥構造と各物性との関係について考察を行うため、薄膜構成元素の状態解析に関する基礎検討(上記(3))を行ったところ、光電子分光法による解析から作製した薄膜中のFeイオンの価数変化と機能元素のドープ量との間の関係を見出した。さらに、磁気・電気相互作用の検知のための基礎検討(上記(4))に関しては、導電性カンチレバーを備えた走査型プローブ型顕微鏡(静電気力顕微鏡)を応用し、作製した薄膜中の任意の領域への電界印可による強誘電ドメイン反転現象を撮像することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BiFeO_3-ABO_3化合物系固溶体の設計と実際の薄膜作製については、幅広い結晶化処理温度域でペロブスカイト単相薄膜が得られるようになり、かつ本化合物系で重要となる薄膜の絶縁性に及ぼす機能元素としてのMnドープ効果について明らかにした。また、薄膜中の遷移金属イオンの価数変化の挙動を光電子分光法などで追跡可能であることを明らかにした。さらに薄膜中の強誘電ドメイン反転の状態を走査型プローブ顕微鏡により撮像可能とした。
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今後の研究の推進方策 |
作製した薄膜中あるいは電極材料層との界面付近に生成する欠陥の種類とその分布状況など薄膜の物性に影響を及ぼす重要な因子について、リーク電流特性など電気的特性に加え、分光学的な手法を組み合わせることにより、構成元素の電子構造から考えた効果的なドープ元素および薄膜作製条件の最適化(特に構成陽イオンの価数制御による絶縁性の向上)など改善策を確立し、磁気的特性および電気的特性の向上を図り、電気的特性と磁気的特性間の相互関係を各物性データより考察する。ナノ結晶構造解析については、透過型電子顕微鏡を用いた評価を行い、磁気・電気ドメイン間の相互作用については、引き続き走査型プローブ顕微鏡により評価する。薄膜の機械的特性評価、各物性の理論計算によるシミュレーションも行えるようにする。
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