研究概要 |
最近,燃料電泡や水素エンジンといった水素エネルギーデバイスの開発が盛んであるが,これらのディミイスが実用時に効率的かつ安全に作動するためには,極微量の水素を高感度・高選択的に高速で検出可能な水素センサの開発が必要不可欠である。本研究では,ダイオード式ガスセンサ(金属/酸化物界面の抵抗変化を利用したガスセンサ)を上述した高性能水素センサとして具現化することを目的とした。 本年度は,まず,電極として合金(Pd-Pt,Pt-Au,Pd-Auなど)を用いた際の水素応答特性について評価した。その結果,Auの合金化は特性を大幅に低下させること,Pd-Ptの組成を最適化することで比較的大きな水素応答が得られることを明らかにした。ただし,電極の深さ方向の組成分析を行ったところ,スパッタリング法により作製しだ直後ではPdとPtとの組成比は表面もバルクもほぼ等しかったのに対して,空気中で高温前処理した後はPdが酸化し電極表面に多く析出していた。窒素中で高温処理しなおすとPdは金属に還元されたが,表面のPd量はPt量に比べて多いままであった。以上のような電極表面組成のガス雰囲気依存性が水素応答特性に大きく影響しており,窒素中の水素応答値は空気中に比べて極端に大きくなった。さらに,ガス雰囲気中に水分を添加すると,空気中では応答値が大きくなるのに対して,窒素中では水素応答値が小さくなったため,相対的にガス雰囲気中の酸素濃度が水素応答値に与える影響が小さくなった。 一方,最適組成化されたPd-Pt電極へポリマーコーティング(ポリマー:ポリオレフィン,スルホン酸基あるいはアンモニウム基を導入したポリオレフィン)することで,水素応答特性の改善を試みた。その結果,乾燥空気中ではポリマーコーティングにより水素応答値が低下するが,湿潤雰囲気下では逆に増加すること,そのポリマー膜の厚みには最適値が存在すること,ポリマーコーティングにより酸素濃度依存性が低減できたことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電極の組成の最適化により水素応答特性が改善したこと,その電極の表面やバルクの組成と水素応答特性との関係が一部明らかとなったこと,電極表面へ他材料(今回は,ある種のポリマー)をコーティングすることで水素応答特性を改善できる可能性があることを明らかにできたため(ただし,電極材料への表面コーティング材料として酸化物を用いることができなかったことは,今後の課題である)。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,当初の研究計画にあった酸化物膜のコーティングを試みる。また,合金電極の深さ方向分析より,表面組成は電極特性に極めて大きな影響を及ぼすことが明らかになったことから,電極表面に他金属をコーティングすることで表面組成をコントロールして,その組成比や化学状態の違いが水素応答特性に及ぼす影響を明らかにすることで,更なるセンサ特性の高性能化を試みる。さらに,表面にコーティングするポリマーの種類をさらに変えたり異種ポリマー成分を積層化・複合化することで,ポリマー組成がセンサ特性に与える影響を明らかにするとともに,その最適化を試みる。
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