研究概要 |
本研究の狙いは酵素を固定化した導電性高分子膜をバイオ燃料電池の電極として利用することにあり,当該年度(初年度)の研究によって次の成果が得られた。 まず,酵素固定化電極(アノード)表面と酵素反応系との間の電子伝達を担うメディエータの検討・評価を行った。候補物質の酸化還元特性に基づいてスクリーニングを行った結果,p-ベンゾキノンがメディエータとして良好な特性を示した。次に,電解重合法によって得た導電性高分子膜の表面に酵素(グルコースオキシダーゼ)を共有結合させた酵素固定化電極を作製し,表面へのメディエータの固定化を試みた。シッフ塩基を介して,p-ベンゾキノンの還元体であるヒドロキノンを電極表面に結合させることができ,この電極によるグルコース酸化電流が観測された。さらに,酵素固定化電極の表面に形成させたヒドロキノンの電解重合層がメディエータとして機能し,バイオ燃料電池の電子伝達系に適用可能であることを確認した。この結果は前例のない新規な酵素/メディエータ固定化電極の作製技術を提示するものであり,電極作製とグルコース酸化特性に関する研究成果はApplied Surface Science誌に掲載されることになった。 一方,上述の研究と並行して,導電性高分子膜の表面に酵素の固定化点を与えるための新規方法を検討した。ポリアクリル酸存在下における電解重合により表面にカルボキシル基を有する導電性高分子/ポリアクリル酸複合膜が得られ,この複合膜は十分な電気化学的活性を有していた。膜表面のカルボキシル基は,酵素のアミノ基と縮合可能であるため,酵素の固定化点として利用した。複合膜の作製と特性に関する研究成果はPolymer誌に掲載され,複合膜への酵素固定と酵素固定化膜をバイオ燃料電池のアノードとして適用した結果はPolymer Journal誌に掲載予定である(印刷中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メディエータとして選定したヒドロキノンを酵素固定化電極の表面に結合させることが可能となり,さらに,電極表面に形成させたヒドロキノンの電解重合層がメディエータとして機能することも明らかとなった。酵素固定化電極によるグルコース酸化電流が観測され,当該電極をバイオ燃料電池のアノードとして適用できる見通しが得られたことから,研究はおおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究成果を踏まえ,当初の計画どおり次の事項を実施する。 (1)グルコース燃料電池の試作:発電試験に必要なガラス製セルの設計および試作を行う。 (2)動作条件と基本特性の評価:試作セルを用いてグルコース燃料電池の発電試験を実施し,セルの構成・動作条件と基本特性との関係を把握する。 (3)セルロース由来の粗製グルコースによる発電試験:セルロースの酵素分解によって得た粗製グルコースを燃料として燃料電池の発電試験を試み,動作特性を評価する。
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