研究課題/領域番号 |
23360304
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
戸高 義一 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50345956)
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研究分担者 |
上路 林太郎 大阪大学, 接合科学研究所, 准教授 (80380145)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 構造・機能材料 / 金属物性 / 水素 / 格子欠陥 / 巨大ひずみ加工 / 歪速度 |
研究概要 |
金属の高強度化を阻害する最大の要因の一つとなっている水素脆化のメカニズムと支配因子を明らかにすることを目的とする。 供試材として、組織が単純であり、また、合金元素や析出物の影響を排除できる、純Fe(極低炭素鋼)を用いた。 純Feを巨大ひずみ加工の一つであるHPT(High-Pressure Torsion)加工することで、高密度格子欠陥の導入と共に高強度化できたことから、水素脆化の特徴を顕在化させることに成功した。 HPT加工(HPT加工まま材)およびその後の熱処理により格子欠陥種を変化させた試料(HPT加工後熱処理材)について調査した。 HPT加工まま材およびHPT加工後熱処理材を用いたTDS(Thermal Desorption Spectrometer)分析の結果、水素のトラップサイトは結晶粒界を構成する空孔クラスターであることが示唆された。 格子欠陥と水素との変形中における動的な相互作用および協調運動に注目し、10 -3 ~ 10 +3 s -1の広い歪速度範囲で引張試験を室温にて行なった。 10 +-0 ~ 10 +2 s -1の間で脆性破壊から延性破壊へ遷移することが分かった。 また、高歪速度(10 +3 s -1)での引張試験では、引張変形破壊に及ぼす水素の力学応答への影響が見られないものの、水素チャージ材では破面のディンプルサイズが著しく小さくなることが分かった。 引張試験後の破面付近の組織観察の結果、水素がボイドの形成を助長することが明らかとなった。 多数のボイドが変形領域に均一に形成して応力を緩和することで、延性的な力学応答を示し、ディンプルサイズが減少したと考えられる。 一方で、低ひずみ速度(<~10 +1 s -1)での引張試験では、ボイド縁のすべり変形が十分に生じるため、脆性的な力学応答となり、セパレーションの破面形態を示したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、「HPT加工まま材を供試材として、歪速度を変えた引張試験にて、水素脆化挙動を調査する」ことを目的とし、脆性-延性遷移が生じる歪速度を明らかにする等の成果が得られた。 その成果に基づいて、平成24年度は、「変形・破壊に及ぼす水素のミクロな作用とマクロな変形・破壊現象(力学応答)とを関連付ける」ことを主な目的とした。 HPT加工まま材の微細組織や引張試験後の破面・破断形態の定量化により、変形・破壊形態の変化に及ぼす水素の影響と力学応答とを関係付ける等、順調に進展している。 また、「HPT加工まま材」およびHPT加工後に熱処理を行なって格子欠陥種を調整した「HPT加工後熱処理材」を用いることで、水素が作用する格子欠陥種が明らかとなりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は主に「HPT加工まま材」を試料とし、また、平成24年度はHPT加工後に熱処理を行なって格子欠陥種を調整した「HPT加工後熱処理材」も供試材として取り扱った。 引き続いて平成25年度は、「HPT加工まま材」・「HPT加工後熱処理材」における水素脆化挙動を調査することにより、水素が影響を及ぼす格子欠陥種を同定する。 また、力学特性と水素の拡散挙動および格子欠陥の易動度とを関連付けて考察するため、歪速度のみならず試験温度を変えた場合の力学応答の変化も調査する。
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