金属の高強度化を阻害する最大の要因の一つとなっている水素脆化のメカニズムと支配因子を明らかにすることを目的とする。 供試材として、組織が単純であり、また、合金元素や析出物の影響を排除できる、純Fe(極低炭素鋼)を用いた。 純Feを巨大ひずみ加工の一つであるHPT加工することで、高密度格子欠陥の導入と共に高強度化でき、また、陰極水素チャージにより20 mass ppm程度もの水素を吸蔵できることから、水素脆化の特徴を顕在化させることに成功した。 HPT加工 および その後の熱処理により、格子欠陥種・量を変化させた試料について調査した。 また、水素チャージ後真空脱気することで、試料中の水素量を変化させた。 これらの試料について、格子欠陥と水素との変形中における動的な相互作用および協調運動に注目し、10 -3 ~ 10 +3 s -1の広い歪速度範囲で引張試験を行なった。 引張試験後の破面付近の組織観察の結果、延性的な破壊を示した試料(高歪速度)では、ボイドの数密度が未水素チャージ材と比べて多かったことから、水素がボイドの形成を助長することが明らかとなった。 これにより、水素チャージ材では破面のディンプルサイズが著しく小さくなったと考えられる。 また、この現象は初期転位密度を減らしたHPT加工後熱処理材においても認められた。 このことから、TDS分析の結果を踏まえ、水素のトラップサイトは結晶粒界を構成する空孔クラスターであることが示唆された。 一方で、低歪速度での引張試験では、応力誘起拡散で濃化した水素の影響によってボイド縁のすべり変形が生じるため、脆性的な力学応答となり、セパレーションの破面形態を示したと考えられる。 このことは、水素チャージ後真空脱気した試料の結果と矛盾しない。
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