ナノポーラス金の孔径粗大化の高温その場透過電子顕微鏡観察を実施した。スパッタリングで作製したナノポーラス金は透過電子顕微鏡でその気孔構造を良好に観察できるほど充分に薄かった。しかし、773 Kまでの温度で加熱その場観察を行った結果、同一の試料内でも孔径が粗大化する部分と最初の孔径を保ったままの部分が存在し、また場所によってはポーラス構造そのものが消失して粒状になる部分もあった。気孔率にもばらつきが見られた。 当初は孔径・リガメント径の経時変化を追跡し、結晶粒成長の累乗則に倣って加熱時間tに対する孔径・リガメント径の依存性を示す指数nを求めること、ならびにその結果をもとに粗大化機構にかかわる拡散機構の特定を予定していたが、透過電子顕微鏡観察の視野範囲内でも組織の変化に著しい不均一が見られるため、指数nを今回のその場観察結果から求めるのは合理的でないと判断した。スパッタリングで作製したような均一性の高いナノポーラス金の膜試料でも孔径の粗大化が不均一に生じたことから、ナノポーラス金属の局所的な格子ひずみや原子欠陥等がポーラス構造の熱的安定性に大きく影響することが示唆された。 また、前年度にはナノポーラス金属の表面特異性を端的に示す指標として有機色素分解反応特性を評価し、表面積と分解速度が必ずしも比例しないという結果を明らかにしたが、この結果はナノポーラス金属の原子オーダの欠陥が原因である可能性を示唆する。このため、本年度は原子欠陥を含む金表面の第一原理計算を行った。その結果、フェルミ準位近傍の電子状態が原子欠陥の導入により変化していることを見出した。この変化が有機色素の安定性(分解性)に影響していると推測された。
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