昨年度は特に炭素・窒素の結晶粒微細化強化係数への影響を粒界偏析の観点から、定量的な調査を試みた。その結果、再結晶焼鈍直後において炭素が窒素に比べ粒界偏析量が多く、その後低温での時効処理に伴い窒素の粒界偏析量も増加することが判明した。また結晶粒微細化強化係数は、炭素と窒素の合計粒界偏析量の増加に伴い増加しており、強化係数と粒界偏析には相関性があることが判明した。 本年度では置換型合金元素の強化係数に及ぼす影響を粒界偏析の観点より調査し、結晶粒微細化強化のメカニズムについてより深い理解を試みた。昨年度、強化係数の増加が認められたFe-Ni系合金に対し、九州大学の保有するエネルギー分散型分光法(EDS)を搭載した収差補正電子顕微鏡を用いて粒界近傍を詳細な分析を行ったところ、Niの粒界偏析が観察された。さらにこの結果から粒界偏析量と強化係数の相関を算出すると、侵入型元素であるCやNに比べ、Niの強化係数に及ぼす寄与は小さいことが判明した。また同様に置換型合金元素であるCrに関しては、強化係数にほとんど寄与しておらず、極微量の炭素をFe-Cr系合金に添加した際に、強化係数が著しく増大する結果が得られた。 本研究により、従来考慮されていなかった極微量に固溶している侵入型合金元素が材料の結晶粒微細化強化係数を大きく左右しており、材料強度の予測を行う上で降伏強度のバラツキをもたらす要因になっていることが判明した。
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