研究概要 |
構造用金属材料は高強度化することで脆化するため,"強靭な材料"を実現するためのアイデアが常に求められでいる.研究代表者らは,これまで結晶粒を微細にするだけでなく,結晶の形態(大きさ,形状)と方位を精緻に制御することで,衝撃特性を飛躍的に向上させた超微細繊維状結晶粒組織を有する高強度鋼を開発してきた.その強靭鋼の更なる性能向上と加工プロセス設計を図るためには,静的なき裂感受性試験を通じ,き裂の発生条件,およびその後の進展という破壊挙動と組織の関係を明確にし,高強度高靭性鋼を実現できる最適な組織設計指針を明示することが必要である. 初年度は強度1800MPa級の中炭素鋼を対象にした.0.4%C-2%Si-1%Cr-1%Mo成分の鋼を焼入れ後,500℃で減面率約80%の温間溝ロール圧延を施し,14.3mm角×1m長さで300nm厚の超微細繊維状結晶粒組織を有する棒鋼を創製した(TF材).比較のため,同成分において,通常の焼入れ後,焼戻しした鋼も創製した(QT材).創製した棒材から10mm角×55mm長さの曲げ試験片を抽出し,室温域でクロスヘッドスピード0.5mm/min,スパン長さ40mmでの三点曲げ試験を実施した.試験後の破面観察とともに,種々の押込み量で試験を中断させ,その後試験片を切断研磨し,き裂の発生と進展挙動を光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡を用いて観察した.QT材の0.2%耐力σys=1.51GPa,引張り応力σB=1.82GPa,全伸びTEL=9.2%であり,破壊に要したエネルギJは129kJ/m2であり,典型的な脆性破面を有した.TF材のσys=1.86GPa,σB=1.86GPa,TEL=14.8%であり,破壊エネルギはJ=5184kJ/m2であった.ただし,TF材はき裂が長手方向に分岐し試験片厚さ10mm押込んでも破壊することはなく,結果的に,TF材の破壊エネルギはQT材の約40倍まで向上した.亀裂の分岐は,結晶粒径の形態(大きさ,形状)と方位に強く依存していることを組織観察結果から明らかにした.
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