最終年度に当たる今年度は,昨年度創成した2種類のフェライト粒厚さに制御した繊維状結晶粒組織を有する800MPa級の0.15%炭素鋼の破壊特性向上とその挙動解明を行った.また,焼きなまし処理によって結晶粒サイズを制御した鋼も対象とした.創成した素材から試験片を抽出し,常温での引張り試験とシャルピー衝撃試験を行い,破面・組織観察を行った.そして,強度,延性,靭性における微細組織の影響について検討した.最後に,既存低合金鋼やこれまで創成された微細粒鋼のデータとともに,本結果を降伏強度YS-吸収エネルギvEの関係図上にプロットすることで,材料強靭化の方向性を探った. 結晶粒微細化による材料の強靱化を考える場合には,単に結晶粒を微細化するだけでなく,主き裂の進展方向を設計思想に含めて,粒径の形状と方位を制御することが必要となる.素材長手方向に<110>方位を有する超微細繊維状結晶粒組織を有した0.15%炭素鋼は,微視き裂の発生から全体破壊までの変形の裕度に優れ,卓越した絞りを持つ.靱性においては,微細ディンプルで形成される主き裂の進展中に多数の微細き裂分岐によって,主き裂先端の応力を緩和し力を分散させた応力遮蔽効果によって,破壊駆動力が低下する.結果的に,強くて壊れにくい強靱化特性を有することを明らかにした.また,微視き裂の発生と伝播機構を明らかにするために,ノッチを付与した曲げ試験を77Kで施すことで,き裂の発生場所を特定した.その結果,結晶粒の短軸長さが1ミクロン以下では結晶粒界で,それ以上では(100)へき界面で優先的に微視き裂が発生し,その後粒界およびへき界面に沿って伝播することを明らかにした.
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