研究課題/領域番号 |
23360328
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
井上 博史 大阪府立大学, 工学研究科, 准教授 (30137236)
|
キーワード | Al-Mg-Si合金 / 冷間圧延 / 温間異周速圧延 / 溶体化処理 / 集合組織 / 微細組織 |
研究概要 |
自動車ボディパネル用析出強化型Al-Mg-Si系合金のr値を大幅に改善し、優れた深絞り成形性を有する板材を得るために、冷間等速圧延と温間異周速圧延を適切に組み合わせ、r値改善に好都合な{111}集合組織を再結晶焼鈍(溶体化処理)中に効果的に発達させることを目的として、再結晶集合組織の形成過程を調査する。そのために、{111}再結晶集合組織が確実に形成する圧延条件で実験を行い、圧延後と再結晶中の微細組織と集合組織を詳細に調べることが必要である。 β-fiber集合組織を発達させるために熱間圧延材に総圧下率65%~95%の冷間等速圧延を施した後、200℃で圧下率20%~40%の温間異周速圧延を1パス行った。Al-Mg-si合金板の実際の製造プロセスを想定して、作製した複合圧延材に540℃で90sの短時間溶体化処理を施し、形成された再結晶集合組織を調べた。その結果、冷間圧延の圧下率が高く温間異周速圧延の圧下率が20%~33%の試料ではTD回転したβ-fiber集合組織が形成されやすく、溶体化処理中に{111}<110>方位を主成分とする再結晶集合組織が発達するのに対して、温間異周速圧延を40%行った試料ではせん断集合組織が形成されやすく、溶体化処理中に{111}方位成分が発達しないことがわかった。このように確実に{111}再結晶集合組織を得るための圧延条件が明らかとなった。Al-Mg-Si系合金で{111}方位形成のための最適圧延条件を明示した例はこれまでになく、得られた研究成果は非常に重要である。 {111}再結晶集合組織が発達する圧延条件下で複合圧延を行い、回復・再結晶過程での微細組織観察と結晶方位解析を行った結果、{111}方位をもつ下部組織は他の方位と比べて転位密度が低く、周囲の変形マトリクスと大角粒界を形成しやすいこと、再結晶初期段階で{111}<110>方位がその周辺領域との間に<111>軸まわりの40°回転関係を有することがわかった。このように、fcc金属では通常発達しない{111}再結晶集合組織の形成過程が少しずつ明らかになり、集合組織制御のための新しい知見が得られつつある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
{111}再結晶集合組織が確実に形成する圧延条件を明らかにしたこと、回復・再結晶過程での微細組織観察と結晶方位解析により{111}再結晶集合組織の形成機構に関する主要な知見が得られたことから、ほぼ当初の計画通りに進展していると判断できる。溶体化処理条件の最適化についてはまだ詳細な調査を行っていないので、今後の検討課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に引き続きAl-Mg-si系合金の{111}再結晶集合組織形成過程を詳細に調べる。特に、再結晶初期段階における{111}方位と他の方位との転位密度の比較検討および{111}再結晶粒形成に及ぼす微細析出物や粗大晶出物の影響の調査をTEMやSEM/EBSDにより実施する。さらに、{111}再結晶集合組織形成に及ぼす溶体化処理条件の影響を明らかにするために、溶体化処理の温度と時間を変化させて形成される再結晶集合組織の変化を調べる。溶体化処理中に微細析出物が再固溶するため、{111}再結晶粒形成に及ぼす微細析出物の影響も考慮しながら、溶体化処理条件の最適化を目指す。
|