研究課題/領域番号 |
23360328
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
井上 博史 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30137236)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アルミニウム合金 / 冷間圧延 / 温間異周速圧延 / 溶体化処理 / 集合組織 / 微細組織 / 回復 / 再結晶 |
研究概要 |
自動車ボディパネル用析出強化型Al-Mg-Si系合金のr値(ランクフォード値)を大幅に改善し、優れた深絞り性を有する板材を得るために、冷間等速圧延と温間異周速圧延を適切に組み合わせ、r値改善に好都合な{111}集合組織を再結晶焼鈍(溶体化処理)中に効果的に発達させることを目的として、再結晶集合組織の形成過程を調査する。そのために、{111}再結晶集合組織が確実に形成する圧延条件で実験を行い、圧延後と再結晶中の微細組織と集合組織を詳細に調べることが必要である。 β-fiber集合組織を発達させるために熱間圧延材に総圧下率85%の冷間等速圧延を施した後、200℃で圧下率30%の温間異周速圧延を1パス行った圧延板に、実際の製造プロセスを想定して、540℃で90sの短時間溶体化処理を施し、{111}<110>再結晶集合組織が形成されることを確認した。この圧延板を用いて、回復・再結晶過程での微細組織観察と結晶方位解析を行った結果、{111}方位粒は転位密度が低く、微細析出物によるピン止めを受けにくいこと、周辺方位粒との間に<111>軸まわりの40°回転に近い方位関係が存在し選択的な成長が生じていること、晶出物のような粗大粒子の周辺から{111}再結晶粒が優先的に生成するような傾向は見られないことが明らかとなった。このように、アルミニウム合金のような面心立方晶金属では通常発達しない{111}再結晶集合組織の形成過程が定性的にわかってきた。 従来の研究とは異なり、深絞り性の良好な{111}再結晶集合組織が確実に発達する圧延・熱処理プロセスを用いて研究を実施したことに大きな意義があり、{111}再結晶集合組織の形成機構を解明するための重要な知見が得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
{111}再結晶集合組織が確実に発達する圧延・熱処理条件で実験を行い、回復・再結晶過程での微細組織観察と結晶方位解析により{111}再結晶集合組織形成のための支配因子を概ね抽出できたことから、ほぼ当初の計画通りに進展していると判断できる。圧延条件の最適化はほぼ達成されたが、さらに{111}再結晶集合組織を発達させるために、溶体化処理条件の最適化を今後検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
さらに厳密な集合組織解析を行い、Al-Mg-Si系合金の{111}<110>再結晶集合組織形成過程を詳細に調査する。得られた実験結果について、主要方位粒に関する回復段階での転位密度や微細析出物によるピン止め状況、粗大粒子周りに形成された再結晶粒の方位、変形マトリックスと再結晶粒の間の<111>軸まわりの回転関係について整理し、{111}<110>再結晶集合組織の形成機構を提案する。また、再結晶集合組織形成に及ぼす溶体化処理条件の影響を明らかにするために、溶体化処理の温度と時間を変化させて形成される再結晶集合組織の変化を調べる。溶体化処理中に微細析出物が再固溶するため、{111}<110>再結晶粒形成に及ぼす微細析出物の影響も考慮しながら、溶体化処理条件の最適化を目指す。
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