自動車ボディパネル用析出強化型Al-Mg-Si系合金のr値を大幅に改善し、優れた深絞り性を有する板材を得るために、冷間等速圧延と温間異周速圧延を適切に組み合わせ、r値改善に好都合な{111}集合組織を再結晶焼鈍(溶体化処理)中に効果的に発達させることを目的として、再結晶集合組織の形成機構を調査した。{111}再結晶集合組織が確実に形成する圧延条件で実験を行い、圧延後と再結晶中の微細組織と集合組織を詳細かつ定量的に調べた。 540℃で短時間の焼鈍を行い、TEMを用いて圧延後および焼鈍初期の微細組織と結晶方位を調査した。その結果、{111}<uvw>サブグレインは他の方位を有するサブグレインよりも粒内転位密度が低く、それを取り囲むサブバウンダリー上の微細析出粒子の数も少ないことがわかった。また、SEM/EBSDによる方位解析結果から、粗大粒子まわりのParticle Stimulated Nucleation(PSN)は{111}再結晶集合組織形成にあまり影響を及ぼさないことも明らかとなった。これまでの研究で、回復段階において{111}<uvw>方位を有するサブグレインが周辺領域と大角粒界を形成しやすく、中でも{111}<110>方位領域は周辺領域と比較的高い割合で<111>軸まわりの40°回転関係が存在することが明らかとなっている。これらの結果から、蓄積エネルギーの低い{111}<uvw>方位領域が焼鈍初期に優先的に再結晶核となり、他の方位領域を蚕食したため、溶体化処理中に{111}再結晶集合組織が発達したと考えられる。 {111}方位成分の体積分率をさらに増加させるために、微細析出粒子によるピン止め効果を利用した熱処理法の検討も行ったが、現在のところ{111}方位成分の体積分率が大きく増加する結果は得られていない。圧延条件だけでなく熱処理条件の最適化も今後必要である。
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