研究課題/領域番号 |
23360333
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
杉山 和正 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (40196762)
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研究分担者 |
三河内 岳 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30272462)
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キーワード | phosphate / slag capacity |
研究概要 |
鉄鋼中のリンは脆性を引き起こす有害不純物元素として知られており、鉄鋼産業においては、銑鉄の脱リン化は最も基本的な製造プロセスのうちのひとつである。しかし、今般の脱リンプロセスは、発生するスラグが多量であるという問題を抱え、環境問題への配慮から新しい方法論の検討がなされている。このような経緯のもと、最近、ダイカルシウムシリケート(C2S)およびトリカルシウムフォスフェイト(C3P)の固溶体(C2S-C3P固溶体)を脱リン反応に積極的に利用するマルチフェーズフラックスが注目を集めている。 本研究プロジェクトは、高温X線その場観察実験および単結晶構造解析を駆使してCa2SiO4-Ca3(PO4)2系状態図の再検討を行い、マルチフェーズフラックス脱リンプロセスの根幹であるCa2SiO4相へのリン酸成分固溶メカニズムを原子レベルで解明することを目的としている。 本年度の研究成果によって、 Fix(1969)によって報告されたC2S-C3P系状態図はおおむね正しく、低温A相が相転移し高温領域にα-C2S-C3P全率固溶体(R相)に相転移することが確認できた。さらに、高温領域の全率固溶体は急速に冷却することによってα-C2Sを基本構造とする非整合超周期構造に変貌することも実験的に明らかとすることができた。S相に関しては、固溶幅が極めて狭くかつフラックスを用いない通常の焼結法では単結晶構造解析に耐えうるサイズの単結晶を得ることができなかった。本年度の大きな成果としては、低温A相の結晶構造を確定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、C2S-C3P系の粉末試料を作製し、研究代表者の所属研究機関に既設の高温粉末X線回折装置を駆使して室温から1800Kまでの温度領域の回折パターンを詳細に測定し、本研究プロジェクトの基盤となる酸化雰囲気下における状態図の再検討を行った。SiO2/P2O5=1/1のA相の単結晶を作製し構造解析を完了することができたが、FeO成分の含まぬS相の単結晶育成には成功していない。本系で通常使用するフッ化物系フラックスは、アパタイト構造を誘導するため別のフラックスの設定が今後のキーポイントであると考えている。また、C3P濃度約40%までの領域に存在する超周期構造に関しては、得られた長周期構造は再現性に乏しく、この点に関しても合成方法の検討が早急に必要であると考えている。隕石に存在するケイ酸塩成分を含むカルシウムリン酸塩には、当初我々が予想していたA相とは構造の異なるものが存在することがEBSPの解析から判明した。しかし、隕石中お結晶相はC2S-C3P系相図には存在領域がない結晶相であるたえめ、この点に関しても共存相との関連において検討が不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究進展で残された問題は3つある。①リン酸塩成分の多い領域に存在するS相の良質な単結晶の作製に成功していない。②隕石中に存在するsilico-phosphateにはすくなくとも2種類あるが、どちらもC2S-C3P系相図に現れる物質ではない。③長周期構造を制御因子を特定できていない。①および②の問題は、いずれも共存する融液相(フラックス相)が解決に向かったポイントであると考えている。別途予算にて、高温領域をまで安定に保持できる電気炉を整備したので、今後は整備した電気炉を駆使して単結晶試料の作製を進めていく計画である。また、本研究のもう一つの目的である希土類元素およびMnなどの発光中心を共存させたC2S相に関しては、SrおよびBaの添加によるホスト構造の制御およびF成分の転嫁に伴うカスピダイン型構造などを候補に研究を開始したい。問題点③に関しては、現在のところ明瞭な解決案は見いだせていないが、液相を介したゲル状物質を用いるなど、出発物質の調整を工夫する計画である。
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