研究課題/領域番号 |
23360340
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
綿打 敏司 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (30293442)
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キーワード | 単結晶育成 |
研究概要 |
対象として偏析係数が0.06と著しく小さなPrを賦活剤として添加するLu3Al5O12(Pr:LuAG)単結晶を選んだ。これは、偏析係数の小さな元素を添加する結晶程、引き上げ法による量産が困難であるからである。結晶合成の出発原料として用いるLu2O3は非常に高額な試薬である。そのため、融点が2043℃のPr:LuAGとほぼ同程度の融点を有するSrTiO3(STO)の単結晶育成を行って、高融点材料の挙動を調べた。当初の計画通り、加熱効率の向上目指した集光加熱炉の改造を行った。しかし、想定したような効果が得られず、更に加熱炉に工夫を加えて、STOを加熱溶融できるようになった。将来的に育成結晶の大口径化と長尺化を両立させるためには一層効果的な加熱を実現する必要があった。育成雰囲気を酸素気流中等の酸化雰囲気から酸素分圧を系統的に下げ、還元性のアルゴン水素混合ガス(Ar95%H25%)にすると加熱溶融が容易になった。育成時の集光鏡の傾斜角度を変化させた条件でSTO単結晶を育成し、結晶断面を機械研磨し、化学エッチングすることで結晶欠陥を評価したところ、傾斜角度の増加により、結晶欠陥が低減できることを見出した。この結果はSTOでも固液界面が凸状の形状をしており、その度合いが変化していることを示唆しているものであった。そこで、Pr:LuAGについても同様の効果が得られると考え、Pr:LuAG結晶の育成実験を同様の還元雰囲気で行った。溶融帯の観察から、Pr:LuAGの場合、界面はむしろ凹状となっていることが示唆され、界面形状の挙動をより詳しく調べる必要があることがわかった。また、育成結晶の長尺化に伴い育成結晶の結晶性が向上するにつれて、加熱効率が低下し、加熱溶融が困難となる現象も見出した。そのため、育成結晶の長尺化を先ず実現した上で界面形状の挙動を調べる必要があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
STOの育成で確認できた傾斜効果を利用した条件で育成した結晶に見られたエッチピットの低減効果は、当初の想定通りの結果で、傾斜効果により、溶融帯の固液界面形状の凸度が減少し、平坦に近くなっていることを示唆するものであった。平坦に近い界面は、溶融帯の安定化を意味し、育成結晶の大口径化も容易にする効果が期待できるものであった。しかし、これ以外においては、申請時の計画では想定できなかった問題が多く見出され、大口径化技術をPr:LuAGシンチレータ結晶に十分に適用できていないのが実情である。先ず、加熱効率の向上を目指した集中加熱法の工夫が十分な効果を示さず、集中加熱法に一層の工夫を加える必要があった。また、Pr:LuAG育成時の溶融帯の観察からPr:LuAGの成長界面の形状は、凹型になっていることを示唆していた。申請時の大口径化技術は、凸状の界面を平坦に近くすることで溶融帯の安定化を実現し、育成結晶の大口径化につなげようとするものであったことから、凹状の界面を平坦に近づけることを想定していなかった。そのため、その対応も可能となるように集中加熱炉に工夫を加える必要があった。単結晶育成にはもちろん、その固液界面形状の変化を系統的に調べるには、少なくとも20mm以上の結晶を育成したりする必要がある。しかし、Pr:LuAGの場合、溶融帯を形成し、育成を進め、育成結晶の結晶性が次第に向上するに従って、集中加熱の効率が低下し、結晶育成を継続することが困難となる新たな問題を生じた。そのため、10mm以上の長尺結晶を育成するには集中加熱に用いる光源の数あるいは、一光源当たりの出力を増加させるあるいは、より低融点でPr:LuAG原料を溶解する溶媒を用いた育成が必要であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
Pr:LuAG結晶の育成で、結晶育成が進行し、育成結晶の結晶性が向上するに従って加熱効率が低下する要因は、Pr:LuAGは単結晶になると透明に近い結晶となることが考えられる。結晶性が悪い状況では、溶融帯近傍に集中する加熱光の一部は育成結晶部分で乱反射を繰り返しながら、吸収されると考えられるため、溶融体ばかりでなく、育成結晶部分もある程度加熱される。しかし、結晶性が向上すると乱反射するような結晶欠陥が低減するため、育成結晶に照射される加熱光は、育成結晶に吸収されることなく透過するようになる。そのため、育成結晶部分の温度は、結晶性が悪い状態に比べて低くなることが考えられる。育成結晶部分の温度が低下すると溶融帯との温度差がより大きくなる。そのため、育成結晶の結晶性の向上に伴って溶融帯から育成結晶への散逸が大きくなっていくことが要因であると考えている。そのため、結晶性の向上に伴う散逸の増加は不可避の減少と考え、そうした状況でも結晶成長を継続する方策として、集中加熱に用いる光源の数あるいは、一光源当たりの出力の大容量化あるいは、より低融点でPr:LuAG原料を溶解する溶媒を用いた育成などがあると考えている。このうち、光源数の増加は、装置の制約から困難であるため、一光源あたりのランプ出力を大容量化することと溶媒を用いた育成を重点的に試みていきたいと考えている。
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