研究課題/領域番号 |
23360340
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
綿打 敏司 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (30293442)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 長尺化 |
研究概要 |
Pr:LuAGの育成において、これまで用いていた1.5kWのハロゲンランプを用いた条件では、Pr:LuAGの溶融には出力上限に極めて近く、結晶育成の進行に伴って育成結晶の結晶性が向上するにつれて、熱の散逸が多くなり、結晶育成の継続が困難になった。そのため、大容量の2.5kWのハロゲンランプを用いた育成を試みた。しかし、2.5kWのランプではフィラメントサイズが1.5kWのランプに比べて大きくなることに起因して、集中加熱に用いる回転楕円鏡の焦点位置から離れた場所からの発光の割合が高くなり、反ってPr:LuAGを溶融することが困難になった。そこで、Lu2O3-Al2O3系状態図に基づき、アルミニウム過剰の共晶組成の溶媒を用いることで状態図上では2043℃の調和溶融温度から1885℃の共晶温度まで最大158℃融液温度を低下させることが期待できる。その結果、育成長を20mm程度にまで長尺化することができた。溶媒量を調整した結果、異相の析出を抑制することにも成功した。育成結晶の終端部分を切り出し、賦活剤として添加したPrの結晶中の固溶量の定量を試みた。その結果、EPMAで定量することは困難であった。しかし、切り出した結晶を両面鏡面研磨し、吸収スペクトルなどの光学特性や発光量等のシンチレーション特性、XRDを用いた結晶性の評価等を行った。光学特性から、Prの3d-4f遷移や4f-4f遷移に起因した吸収等が確認され、育成結晶中にPrが固溶していることが確認できた。発光特性も標準的なシンチレーターのBGOに比べて2~3倍の発光量であることがわかり、CZ法で育成したPr:LuAG結晶で報告されている発光量と同程度であることが確認された。XRDを用いたロッキングカーブ測定からは育成結晶の結晶性がCZ結晶よりも高いことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶媒を用いることで育成結晶の長尺化に成功し、育成結晶の結晶性が十分向上するまでの育成が可能となった。育成結晶の発光特性は、CZ法で育成した結晶と同等であり、XRDで評価した育成結晶の結晶性はCZ結晶よりも良好であった。このことから、当初懸念していた凹型の固液界面形状の可能性について配慮する必要性が少ないだけでなく、育成結晶の大口径化と長尺化を両立することを実現しさえすれば、原理的に偏析制御が可能な本法の特長から、従来偏析制御が困難で長尺化が難しかったCZ法によって育成されていたPr:LuAG単結晶に比べて高品質化と低コスト化を比較的容易に実現できる見通しがたてられそうであることがわかったためである。
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今後の研究の推進方策 |
本法で育成されるPr:LuAG結晶がCZ法で育成される結晶と同等の発光特性を示し、結晶性についてはCZ法よりも優れていることがわかったことから、偏析制御が原理的に可能という本法の特徴を生かせば、偏析制御が困難なCZ法に対する優位性が際立ち、本法に対して新たな工業的製法として一つに期待が高まると考えられる。そのためには育成結晶の一層の長尺化と大口径化が最大の課題である。現状よりも集中加熱に用いる加熱光源の出力に余裕を持って溶融帯を溶融する技法の確立が必須であると考えている。その技法として2つの手法を検討することを考えている。Pr:LuAG結晶は透明に近い結晶であるため結晶性の向上により、加熱光は育成結晶を透過しやすくなる。これが、結晶性の向上に伴って溶融帯からの熱の散逸が多くなり、加熱効率が低下する要因である。しかし、Prにはf電子が部分占有されているため、可視域にf-f遷移やd-f遷移に伴う吸収がある。そのため、溶融帯のPr濃度をこれまでよりも高くすれば、溶融帯の加熱光の吸収効率が高くなると期待される。Prは偏析係数が0.03と小さいことから、溶融帯に過剰に添加しても育成結晶中に過剰に固溶することなく、その多くが溶融帯にとどまると期待される。そのため、溶融帯での集中加熱光の吸収を従来よりも高くし、溶融帯の加熱に必要なランプ出力の余裕を増加させることができると考えている。もう1つは、従来のハロゲンランプ光源に比べて一光源あたりの出力は従来よりも高出力であるが、光源体積が小さいキセノンラップを光源とした育成を試みることを考えている。これにより、溶融時のランプ出力に余裕が生じ、これまで取り組めなかった育成結晶の大口径化と長尺化の両立を検討できると期待している。
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