空港の保安検査場や医療現場やなどで、内部を非接触に調べるために広く用いられている撮像装置の性能と価格は、各撮像装置に用いられるシンチレータ単結晶の結晶性とその製造コストに大きく依存しているため、良質かつ安価なシンチレータ単結晶を製造することが重要である。Pr添加Lu3Al5O12(以下Pr:LuAG)はシンチレータとして優れた結晶であるが、賦活剤として添加するPrの偏析係数が0.06と1比べて著しく小さいため、引き上げ法では著しいPrの偏析が生じる。そのため、結晶育成過程における歩留まりが非常に悪く、これが撮像装置全体の性能と価格に大きな影響を及ぼしている。 代表者が従事してきた浮遊帯溶融法では偏析制御が可能で育成方向に均一組成の長尺結晶を育成できるが、単結晶の大口径化が難しいため、シンチレータ単結晶の製造には用いられていない。本研究では、代表者が加熱方法の工夫によって最近見出した大口径化技術をPr:LuAG単結晶の育成に適用することで育成結晶の大口径化と長尺化の両立による低コスト化を目指した。 ハロゲンランプを加熱光源とした実験では、育成結晶の結晶性は、良好であることを示すことができた。しかし、Pr:LuAGの融点が2080℃程度と非常に高いことと育成結晶が比較的透明であることに起因して、結晶育成可能な結晶径はせいぜい6 mm程度に過ぎないことに加えて、結晶育成の進行とともに溶融帯の保持に必要なランプ出力が増大し、育成長が15 mm程度になるとランプ出力を最大としても溶融が困難となり、育成結晶を長尺化することが困難であった。 高融点物質の単結晶育成に適したキセノンランプを加熱光源とした実験では、育成結晶の長尺化と大口径化は進展したが、育成後に結晶中にクラックを生じた。この抑制に育成条件を最適化する必要があることがわかった。
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