研究概要 |
常圧水素下でテトラリンの分解反応を各種ゼオライト・固体酸を触媒として行った.あわせてアルカン(プロパン・ヘキサン・オクタンなど)分解,トルエンメチル化,ナフタレンメチル化,クメン分解(一部はデータの提供のみ受けた)を同一触媒で行ったときの反応速度データも収集し,テトラリン分解における活性支配要因を推定した.テトラリンの分解においては12-ring以上の大きさの細孔もしくは開いた空間が必要で,アンモニア吸着熱130kJ/mol以上の強いブレンステッド酸点を用いて573K程度の比較的低温で過分解を抑制しつつ目的反応が可能であることがわかった.他の反応と比較すると,小分子アルカンと単環芳香族の分解活性はほぼ完全に酸性質のみに依存し,分子の大小に関わらずメチル化反応の速度は表面の親疎水性に影響され,ナフタレン環以上の物質の反応速度は10-ring以下の小さなミクロ細孔で抑制された.以上のように,高性能な触媒に必要な要素が明確となった. 一方ゼオライトの微細構造と酸強度の関係,酸強度と反応中間体の安定性の相関などを調査するための量子化学計算においては,BEA,MFI型の理論的に可能な全酸点のシミュレーションがほぼ完了し,これらの酸強度分布の実測値が理論的に支持された.またシリコアルミノフォスフェート(SAPO)の酸強度測定がなされ,理論計算値が実測値と一致し,計算で得られた構造から,Al-O-P結合がSi-O-Si結合より軟らかいことが理由で,SAPOにおいてはアルミノシリケートよりAlOHSiの両端からの圧縮力が緩和され,結果的にLewis酸性のAlがSiOHから離れ,電子の吸引力が弱いので酸強度が弱いことが初めて実証された. 以上から望ましい活性点のイメージは明確となったので,次年度以降にこのような活性点の設計に進む.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
触媒反応については全体の傾向をまとめることができ,予定した内容を越えた広い知見が得られた.ただし採択時期が遅かったために高圧反応の装置導入が遅く,高圧反応では成果が出ていない.また量子化学計算も開始が遅れたために作業が遅れているが,予定しなかったSAPOに関する知見が得られ,全体では当初計画を越えたところが2/3程度,足りないところが1/3程度で,平均すれば順調と思われる.
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今後の研究の推進方策 |
望ましい活性点のイメージが明確となった.すなわち,12-ring以上の細孔に強い酸点を設計することが必要である.そのための壁の一次構造がMFI,MWWなどのいずれに近い方がよいのか,系統的な研究を行う.一方高圧反応でナフタレン誘導体の分解を行い,細孔径と酸強度が触媒活性に及ぼす影響について今年度の知見を実証する.
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