研究課題/領域番号 |
23360359
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
竹中 壮 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10302936)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 固体高分子形燃料電池 / Ptアノード触媒 / CO被毒 / シリカ被覆 / 水素の酸化 |
研究概要 |
水素エネルギー社会の実現に向け,固体高分子形燃料電池の普及が期待されている.固体高分子形燃料電池の本格的な普及に向け,Ptアノード触媒のCOによる被毒が問題となっている.現行の家庭用固体高分子形燃料電池システムでは,水素燃料は炭化水素の水蒸気改質とそれに続くCOの水性ガスシフト反応により製造される.しかし,この水素製造法では水素燃料中のCOを完全に除去することはできないため,高いCO被毒耐性を有するアノード触媒が求められる.本研究では,厚さ数ナノメートルのシリカ層での被覆によるPt触媒のCO被毒耐性向上を試みた.昨年度の研究で,カーボンナノチューブ担持Pt触媒を3-アミノプロピルトリエトキシシランとテトラエトキシシランの逐次的な加水分解を利用してシリカ層で被覆すると,PtのCO被毒耐性が向上することを見出している.そこで本年度は,カーボンナノチューブ担持Pt触媒のCO被毒耐性を最適化することを目的に,3-アミノプロピルトリエトキシシランとテトラエトキシシランの添加量の最適値を求めた.その結果,3―アミノプロピルトリエトキシシランをカーボンナノチューブ上に担持されたPt粒子表面に1層だけ吸着する量を添加し,その後シリカ層が5ナノメートル程度になるようにテトラエトキシシランを添加すると,PtのCO被毒耐性が大きく改善されることが分かった.また燃料電池作動条件下におけるシリカ被覆カーボンナノチューブ担持Pt触媒中のPt粒子の状態をX線吸収分光法のその場測定により評価した.その結果,シリカで被覆してもPtの状態は変化しないことが分かった.よってPtとシリカ層との化学的な相互作用によりPtのCO被毒耐性が改善されたわけではないと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,固体高分子形燃料電池用炭素担持Ptアノード触媒のCO被毒耐性向上を目的に,シリカでの被覆を応用してPtのCO被毒耐性を向上させることを狙いとしている.これまでに行った研究により,シリカで被覆されたカーボンナノチューブ担持Ptアノード触媒はCOを混合した水素燃料を供給しても,未被覆のカーボンナノチューブ担持Pt触媒に比べ,高い発電能力を有することを見出いている.またカーボンナノチューブ担持Pt触媒を被覆するシリカ層の厚さとシリカ層の密度が,触媒のCO被毒耐性に与える影響について明らかにした.また固体高分子形燃料電池用アノード触媒は,酸性電解質中,電位がかかった状態で作動する.カーボンナノチューブ担持Pt触媒のシリカでの被覆によるCO被毒耐性向上機構を明らかにするためには,その条件下におけるPtの化学的状態を検討しなければならない.そこで酸性水溶液電解質中,電位がかかった状態でのシリカ被覆カーボンナノチューブ担持Pt触媒のPt L3殻X線吸収スペクトルによりPt種の電子状態・幾何学的構造を検討したところ,シリカ層とPtの化学的な相互作用は弱いことが分かった.研究開始当初から上述の研究は計画しており,予定通りに成果が得られている.来年度は最終年度であり,これまでに得られた成果を基に,優れたCO被毒耐性を有するカーボンナノチューブ担持Pt触媒を開発する予定である.また当初計画していなかったが,現行のアノード触媒であるカーボンブラック担持Pt触媒をシリカで被覆し,触媒のCO被毒耐性が改善されれば,シリカでの被覆法がより実用化に近づくため,最終年度に行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究でカーボンナノチューブ担持Pt触媒をシリカ層で被覆することで,PtのCO被毒耐性が大きく改善されることが分かった.現行の固体高分子形燃料電池のアノードでは,カーボンブラック担持Pt触媒が利用されている.これまでに用いたカーボンナノチューブ担持Pt触媒は,現行の固体高分子形燃料電池に利用できるものの,シリカでの被覆によるPtのCO被毒耐性向上法を実用化するためには,現行のカーボンブラック担持Pt触媒にシリカでの被覆法を応用することが望ましい.そこで来年度は,様々な条件によりカーボンブラック担持Pt触媒をシリカ層で被覆し,それらの水素酸化活性およびCO被毒耐性を評価する.ここで得られた知見を基に,カーボンブラック担持Pt触媒のCO被毒耐性を改善できるシリカでの被覆条件を明らかにする.また最適化されたシリカ被覆カーボンブラック担持Pt触媒を用いて,シリカでの被覆のよるPtのCO被毒耐性向上の機構を明らかにする.
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