研究課題/領域番号 |
23360361
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
川崎 英也 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (50322285)
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研究分担者 |
荒川 隆一 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (00127177)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 金属ナノ粒子 / 金属クラスター / 合成触媒 / 光触媒 / 発光 |
研究概要 |
数個から数百個の原子で構成されている1-2ナノメートル程度の金属ナノ粒子は“金属クラスター”と呼ばれており,従来の3 nm以上の“金属ナノ粒子”とは異なる性質を示す興味深い物質群である。金属クラスターの液中合成では,金属クラスターの生成と安定化のため,通常,金属との相互作用が強いチオール化合物などの有機保護剤が添加されるが,金属クラスターの表面利用が低減される場合も考えられる。そこで,本研究は,“チオール化合物などの保護剤を使用せずに金属クラスターを液中合成する方法を開発することを目的としている。本年度は, N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒を還元剤&保護剤とするDMF還元法により,界面活性剤や高分子保護剤を用いずとも,銅ナノ粒子(クラスターを含む)と酸化鉄ナノ粒子を合成できることを見出した。金や白金以外の他の金属種もDMF還元法が適用できることがわかった。 銅ナノ粒子については,ウルマンカップリング反応において高い触媒活性を示すとともに,青色発光を示すことが見出された。一方,酸化鉄ナノ粒子については,1-2nmのクラスター合成は実現しなかったものの,約3-8nmのシングルナノ粒子が得られた。酸化鉄ナノ粒子の合成においてDMF還元法と水熱合成処理を組み合わせることにより,酸化鉄(FeO)が生成することがわかった。600度近い高温で生成するFeOが150度の低温でFeO粒子が合成できるのが本合成法の特徴である。このFeOナノ粒子は青色発光を示し,紫外可視光による光触媒能を有するが明らかとなった。 また,金属クラスター構造を決めるためにマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)において,金属クラスターに有用なMALDI-MSの新規なマトリックスとして,diphenylfumaronitrile (DPF)を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で見出されたホルムアミド系溶媒を用いた金属クラスターの合成法(DMF還元法)を,金以外の金属種でも合成できるかどうかを検討することが本年度の目標であった。その中で,本年度はDMF還元法により,金以外にも鉄や銅の元素からなる金属クラスター・ナノ粒子の合成にも有用であることが見出すことができた。本合成法で得られた銅・鉄ナノ粒子において,触媒能や発光特性など興味深い特性も見出された。これらの結果から,研究計画はおおむね順調に進んでいると考えられる。また,金属クラスターの構造決定を行うための分析法の開発も本研究の目的としている。その中で,金クラスターのMALDI-MS分析において有用な新規マトリックスも見出すことができた。ただし, 当初計画にあった金属クラスターの構造決定を行うための質量分析システムの試作は達成したものの,本装置を用いた金属クラスターの精密構造決定までは,至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度まで,保護剤を用いない金属クラスター・ナノ粒子の合成法として,還元剤及び保護剤の機能を有するホルムアミド系溶媒を用いた金属ナノ粒子合成法を開発してきた。今後は,DMF以外のホルムアミド系溶媒,及びその他の溶媒で,保護剤を用いない金属クラスター・ナノ粒子の合成法の可能性を検討する。その候補となる溶媒として,プロピレングルコール,メチルイソブチルケトンなどがあげられる。保護剤を用いない合成法で得られた金属ナノ粒子と,保護剤有りで合成された金属ナノ粒子の触媒能評価を行い,触媒特性における保護剤の役割を明らかにする。また,試作したレーザースプレーイオン化(LSI)質量分析装置を用いて,昨年に引き続き,金属クラスターの検出のための最適化条件を検討する。
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