研究課題/領域番号 |
23360362
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
前田 勇 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (10252701)
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研究分担者 |
渡辺 昌規 山形大学, 農学部, 准教授 (20320020)
高橋 美智子 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (90345182)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ニトロゲナーゼ / モリブデン / 細胞凝集 / modE / 紅色非硫黄細菌 / 光合成細菌 / シアノバクテリア |
研究概要 |
モリブデン応答性転写因子であるModEタンパク質の全長、あるいはそのC末端側に位置するモリブデン結合ドメインをコードする遺伝子を導入し、モリブデン濃縮能を強化した組換え紅色非硫黄細菌を育種した。導入した遺伝子が発現し機能した結果、モリブデンの細胞内含量が向上した。また、遺伝子導入の細胞増殖に対する阻害的効果は限定的であった。遺伝子導入により、培地に添加した8種類の金属の細胞含量の総和に対するモリブデン含量の比率が向上したことから、モリブデンに対する選択的濃縮能が向上したことが明らかになった。遺伝子導入の効果は、C末端側モリブデン結合ドメインをコードする遺伝子を導入した光合成細菌においてより顕著に現れた。 また、遺伝子導入の効果をニトロゲナーゼを誘導した細胞とニトロゲナーゼを誘導していない細胞とで比較した場合、ニトロゲナーゼを誘導していない細胞において、より顕著にモリブデンの選択的濃縮が認められた。ニトロゲナーゼを誘導した場合には、合成されたニトロゲナーゼタンパク質と、細胞内に取り込まれた多くのモリブデンが結合するため、組換えModEタンパク質との結合によって細胞内に保持されるモリブデンの割合が減少するものと考えられる。 また、モリブデンやバナジウムを選択的に濃縮するための光合成細菌宿主として、特に細胞塊の形成能に優れたフィラメント状シアノバクテリア(Anabaena variabilis)株の選抜を行った。 紅色非硫黄細菌Rhodovulum sulphidophilumの凝集性に関わる細胞外マトリックスとして核酸が関与することを明らかにした。その核酸は、RNAや特定の塩基配列を有するDNAフラグメントではなく、細胞外に漏出あるいは搬出されたゲノムDNAが関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モリブデン濃縮能を強化した組換え紅色非硫黄細菌を育種し、遺伝子導入の各種金属動態に及ぼす影響について詳細に検討することができた。特に、遺伝子導入の効果が、中心元素としてモリブデンを配位するニトロゲナーゼの合成の有無により大きく変化することを明らかにするなど、新たな知見を得ることができた。 また、紅色非硫黄細菌の凝集性に関わる細胞外マトリックスとして核酸の関与を明らかにすると共に、それがRNAや特定の塩基配列を有するDNAフラグメントではなくゲノムDNAであることを示すことができた。また、細胞塊の形成に優れたシアノバクテリア株を選抜することもできた。これらの結果から、モリブデンの選択的濃縮に優れた紅色非硫黄細菌株の育種、メタロミクスによる組換え菌株における金属動態の解明、および水相からの効率的なレアメタル回収法の開発の主要な3つの課題について一定の成果を得ることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
(I)レアメタル濃縮のネットワークモデルの構築 レアメタル濃縮能を強化した光合成細菌の組換え株で、細胞内への物質フローとキレート分子―金属複合体形成を主要金属元素において明らかにする。①特徴的なキレート分子―金属複合体の形成、②菌体質量あたりの目的レアメタル濃度上昇、③細胞中の金属元素総量に対する目的レアメタルの比率について検討する。得られた複数の組換え株の中から有望な株を選択する際には主としてICP-発光分析装置を用いた評価を行う。その後に選抜株を用いたより精度の高い解析をICP-MSにて行い、外来のレアメタル・キレート分子の生合成が主要金属元素の物質フローと、金属―生体分子間相互作用にどのような影響を与えるのかを明らかにする。 (II) シアノバクテリアのレアメタル濃縮率の評価 光合成細菌宿主としてフィラメント状シアノバクテリア(Anabaena variabilis)を検討する。紅色非硫黄細菌で行う方法と同じくnif遺伝子群やvnf遺伝子群を発現させることにより、レアメタル濃縮能を強化したシアノバクテリア細胞を調製し、モリブデンやバナジウムの濃縮能や選択性について評価を行う。 (III) レアメタルの濃縮能を強化した光合成細菌の育種 平成24年度に育種した組換え菌株に対して種々の観点からの解析を行う。具体的には、導入した遺伝子が発現し機能しているか否か、遺伝子組換えが増殖に阻害的に働くか否か、目的金属に対する濃縮効率は向上しているか、といった点である。より高い選択性と濃縮能を有する組換え光合成細菌株の育種に取り組む。 (IV) 水相からの効率的なレアメタル回収法の開発 光合成細菌やシアノバクテリアについて、細胞塊の効率的な形成法を利用し、水相からの細胞回収率と共にレアメタル回収率についての評価を行う。凝集性を持たない種に凝集性を付与可能か否かを明らかにする。
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