研究課題/領域番号 |
23360366
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
高木 昌宏 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 教授 (00183434)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リポソーム / 相分離 / ダイナミクス / 荷電 |
研究概要 |
(背景・目的)生体膜の2次元相分離構造や、3次元膜曲率の変化は、細胞機能に深く関わっていることが示唆されている。膜ドメインや小胞形成などの再現実験には成功しているものの、生体系における制御パラメータに関してはあまり研究が進んでいない。生体膜は、マイナス荷電を持っているが、その役割については十分解明されていない。そこで本年度の研究では、脂質膜構造形成に寄与するパラメータとして、脂質分子の電荷に注目した。 (方法)中性リン脂質(DPPC)、マイナス荷電リン脂質(DPPG) 、コレステロール(Chol)を混合し、荷電ベシクルを形成した。蛍光プローブには、Rho-DHPE, BODIPY-Cholesterolを用いた。膜表面電位をDPPG混合比および塩遮蔽によりコントロールし、膜構造(膜表面の相分離ドメインおよび小胞の曲率形態)を観察した。 (結果・考察)荷電脂質DPPGを含まない膜では、表面は一様で、リポソームは球型であった。DPPG混合比を増加させると、膜面上に相分離構造が観察され、膜孔を持つ開口型リポソームが形成された。各組成における相分離ドメインの面積測定、リポソームのサイズ測定を行ったところ、DPPG混合比の増加と共に、ドメインの占める面積の増加や開口型リポソームのサイズが上昇する結果が得られた。また、電荷を塩で遮蔽すると、相分離構造および膜孔の形成率が低下した。 実験結果から、脂質分子の持つ電荷が、膜の2次元相分離構造や、3次元開口構造を引き起こしていることがわかった。膜の開口構造形成には、相分離ドメインのサイズ増加による膜曲率変化が重要だと考えられる。これは、膜の2次元構造が3次元構造にも影響を及ぼしている事を示唆している。マイナスに荷電している生体内においても、これらの膜の表面電位のコントロールにより、多様な膜構造が制御されていることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜ダイナミクスについて、2次元(相分離)、3次元(形態変化)と分けることで、より詳細な物理現象を、分子レベルでの構造を元に議論できるようになった点で、目的通りの進展がみられると判断できる。 今後は、数理モデルやシミュレーションなど、実験データの解析にも力を入れて、それらモデル膜を通した知見を、実際の生きている細胞減少にも結び付けたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、電荷を用いた研究の多くでは不飽和荷電脂質が用いられ、膜表在性タンパク質との吸着や相互作用などに焦点が当てられてきたが、本研究で不飽和荷電脂質を用いた系で静電効果を検証したことで、電荷を持った脂質分子が存在することが膜の2次元構造、3次元構造両方に影響を及ぼすことを明らかにした。 本研究で得られた知見は、タンパク質-膜間相互作用の解明や、電荷を持った脂質のモデル膜理論の構築さらには、実際の細胞においてもラフト、非ラフト領域から発展させた詳細な相状態の構造や、生体膜ダイナミクスの構造制御メカニズムの解明にも研究を展開することができると考えている。
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