研究概要 |
(背景)生体膜中には飽和脂質とコレステロール(Chol)が豊富な相分離構造(ラフトドメイン)の存在が示唆されており、シグナル伝達などの機能発現の場として働いていると考えられている。モデル膜系において、ラフトドメインを模した膜相分離構造は不飽和脂質、飽和脂質及びCholの混合系で再現できる。重要な膜構成成分であるCholは酸化されると7-ketocholesterol(7keto)、7β-hydroxycholesterol(7β)といった酸化コレステロールを生じる。我々は特に、酸化コレステロールの親水性置換基に注目し、相分離構造や脂質分子間相互作用について調べることを目的とした。 (方法)不飽和リン脂質 (DOPC)と飽和リン脂質 (DPPC)のモル分率を1:1で固定し、ステロールとしてChol, 7keto, 7βを含む系において、相分離構造を観察した。 (結果・考察)相分離構造を比較した結果、ステロールが低濃度域(<10%)において、Cholを含む系ではステロールを含まない系で形成される縞状の相分離構造が、 7keto、7βを含む系では歪な相分離構造が多く観察された。また、ステロールの濃度上昇に伴い7ketoを含む系ではCholとほぼ同じ濃度域(15~40%)で、Chol:7keto=1:1を含む系ではCholより低濃度域(10%~30%)で円形の相分離構造が観察された。しかし、一方で7β, Chol:7β=1:1含有膜では相分離構造が観察できなかった。つまりCholのみや7ketoのみに比べ、Cholと7ketoの両方が存在する場合の方が相分離構造形成がより促進された。また7βが含まれている場合、相分離構造形成が阻害された。以上の結果から、脂質間の疎水性相互作用だけでなく、Chol, 7keto間の親水性相互作用が関与した相分離構造形成のメカニズムの存在が示唆された。
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