研究課題/領域番号 |
23360369
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
伊藤 敏幸 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50193503)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | イオン液体 / 不斉合成 / 酵素反応 / DKR反応 / 固体酸触媒 |
研究概要 |
加水分解酵素であるリパーゼは丈夫な酵素であり,貴金属触媒や固体酸と共存させてもアシル化を触媒することが知られており,現在では医薬品中間体の合成に工業的にも利用されている.そこで,固体酸・塩基触媒とリパーゼを共存させることで,固体酸・塩基触媒と酵素との協調による新しいキラル反応プロセスの開発となる動的速度論的光学分割(DKR)反応の開発が本研究の目的である.DKR反応を実現するためには反応基質であるアルコールの素早いラセミ化を起こす触媒と,エナンチオ選択性が高い高活性のリパーゼの組み合わせを見つける必要がある.昨年までの研究で1-フェニルエタノールをモデル基質にラセミ化を促進する最適ゼオライトを探索し,H-βVALFORCP811BL-25を見いだしている.また,リパーゼには我々の研究室で開発したイオン液体コーティング酵素IL1-PSが良く,反応条件を最適化した結果,ジイソプロピルエーテル溶媒,オクタン酸=ビニルをアシル化剤に使用して収率75%,>99% eeで1-フェニルエタノールのアクタン酸エステルを合成することができた.しかしラセミ化の過程で2量体が生成するために収率が上がらないという問題点が明らかになった.2量化はゼオライト細孔内で起こっていると考えられた.そこで,反応器質として嵩高い2級アルコールを探索した結果,インダノールを基質に用いると90%の収率でアシル体が得られたが,ゼオライト触媒による非エナンチオ選択的なアシル化が同時進行し,エナンチオ選択性が50%ee程度に低下するという新たな問題が生じた.そこで,反応条件をさらに最適化した結果,ビニルヘキサン酸をアシル化剤に使用し,イオン液体とヘキサンの2相系で反応を行うこで84%収率81%eeでヘキサン酸=インダノールを得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で設定した三つのテーマのうち,最初のアリールアルコールのDKR反応については,鍵を握るラセミ化力の強いゼオライトと強力なアシル化酵素の組み合わせを確定できたが,ラセミ化能力の高いゼオライトを用いると副反応である2量化も促進され,このために収率が上がらないという問題が生じた.ただし,イオン液体コーティング酵素を再使用を繰り返すためのイオン液体のデザインを検討し,よいイオン液体をデザインできた.また,アミノ酸とアルキルPEG型イオン液体の協調でリパーゼの活性化ができることを明らかにし,論文として学術誌に公表した.さらに,イオン液体コーティング酵素を活用した含フッ素アリルアルコールの合成を達成し,反応基質に使用して遷移金属触媒不斉アミノ化反応などを実現した.これらの成果は論文として学術誌に発表した.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に開発したDKR反応の適応基質範囲を確定する.また,二つ目の課題として設定したDKR型アルドール反応の開発に着手する.固体酸触媒を検討したが,酸触媒で脱水して収率が上がらないという問題点が明らかになった.そこでDKR反応にこだわることなく,固体塩基の共存下でリパーゼを作用させる新しいタイプの光学分割を検討する.で水酸基が三つ目の課題であるイオン液体コーティング酵素によるラッカーゼの活性化の予備実験を行ったが,市販の酵素では良い結果が得られなかった.利用できるラッカーゼを探査する.
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