本研究は,現在,力学的環境のみで評価されている疲労亀裂伝播速度を,金属結晶学的な視点からの影響も加味した評価方法を確立して,構造物の疲労亀裂伝播寿命推定の高精度化や,耐疲労亀裂伝播鋼の開発に貢献するための基礎的研究である。なお,本研究の特徴は,従来の疲労試験環境(大気中,載荷速度10Hz)で,高倍率,高速撮影した画像を画像処理して,疲労亀裂伝播挙動への影響要因を直接分析するところにある。 本研究により,取得した動画にPIV法を適用して疲労亀裂先端近傍の変形をベクトル表示することが可能となった。さらに,このPIV法によって疲労亀裂先端の変形挙動を積算することによって,載荷時の再引張り塑性域の範囲,及び除荷時の再圧縮圧縮塑性域の範囲を把握することが可能となった。求められた圧縮塑性域の亀裂先端方向の寸法は,豊貞九州大学名誉教授らが開発したFLARPシミュレーション解析法において示された,疲労亀裂伝播挙動を明確に表す再圧縮塑性域寸法を算出する式の結果と良い一致を見た。 さらに,鋼板板厚方向に疲労亀裂が伝播した試験片と鋼板板幅方向に疲労亀裂が伝播試験片それぞれの表面を0.01㎜ごとに研磨しながら,静止画像を撮影し,それを50枚重ね合わせて3次元画像を作成した。この結果から,パーライト結晶組織と疲労亀裂の伝播経路の関係を明らかにした。これにより,疲労亀裂は出会った硬いパーライト組織を避けるように伝播すること,疲労亀裂がパーライト組織を断ち切るように伝播する場合には,その表面近傍のみにパーライト組織が存在して直下には軟らかいフェライト組織が深く,かつ大きく存在するか,パーライトがくびれて断ち切りやすいようになっていることを明らかにした。 本研究成果の一部は,平成23年5月の日本船舶海洋工学会講演会で発表され,溶接学会FS委員会や日本溶接協会FTE委員会で技術報告として,発表した。
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