凹面鏡タイプの反射分光装置を試作して線形加速器-分光装置システムに設置し、電子線パルスの非照射/照射下の条件で装置の動作確認を行うとともに、懸濁溶液中の高速反応の測定(反射/透過分光法)の重要性を明確にする相補的な化学状態分析として、海水のパルスラジオリシス(透過分光法)ではハロゲン化物イオンの反応性について、固体材料の水蒸気吸着測定等ではゼオライト充填層での異なる二つの空隙について、それぞれの特徴を調べた。 反射分光装置の動作確認では、直径40mm、曲率半径100mm、試料前面までの光路100mm(設計時、入射・検出角30度)の凹面鏡、及び酸化物の懸濁水を試料に用いて電子線パルスの照射を行った結果、凹面鏡の位置やサイズを変えることで試料から生じるチェレンコフ光を反射(検出)光に対して抑制できること、電子線パルスに対する試料セル面の角度を変えることでセル前面の石英板からの正(鏡面)反射光を除去できること、拡散反射光で試料中の反射・透過分光が可能になったこと等を明らかにした。 海水のパルスラジオリシスでは、ハロゲン化物イオンと放射線分解生成物の水酸化ラジカルとの反応を観測した結果、塩化物イオンが0.1μs未満(不均一反応)の領域で、臭化物イオンが0.1μs以上(均一反応)の領域で主に反応することがわかった。また、ゼオライト充填層の水蒸気吸着測定等では、充填層内の粒子間と細孔内の空隙を調べた結果、事故時の汚染水処理で用いられるゼオライトの細孔内には海水塩分等のイオンが侵入しないこと、粒子間と細孔内で水の放射線分解の初期過程が異なること等が示唆された。 期間中、反射分光装置のデザイン・開発の遅延等があったものの、これまでの照射実験や化学状態分析の成果並びに反射分光装置をもとに、今後、懸濁溶液中の高速反応挙動の解明に関するより的確かつ詳細な研究を進めることができる見通しを得た。
|